波乱の再開



「おかしい、これは壊滅的に……いや、もはや破滅的におかしいと思われる」

 自分以外に誰もいない室内の中、美好は何気なしに呟いた。

「いや、確かに誰かが残らなければならないのは分かるよ。でも問題は、どうしてこの僕がその留守番役に回らなければならないか、ということなんだよね、うん」

 彼は部屋の中をぐるぐると歩き回ると、そのまま仰向けにベッドの上へと倒れ込む。

 香野、雅、珀憂がノルンの国へと向かう中、美好は不本意ながらもオリーブの留守を任せられることとなった。

 本当なら溜まった事務仕事を片付けたり、部下の育成に時間を費やしたりと彼にとってはやらねばならないことは山積みなのだが、そんなことをする気力も出ない。

 そもそも楽しそうなことには進んで首を突っ込みたがるのが彼の性質であるためか、自分だけが“仲間外れ”にされるという状況自体が、彼にはとても不愉快で仕方が無かったのである。

「あーあ、みんな今頃、どうしてんだろうなー」

 そうつまらなそうに虚空に向かって呟いた時、外から扉が二、三度ノックされる。

「はーい、どーぞー」

 彼は上半身だけを起こして返事をするものの、一向にそこから誰かがやってくる気配は無い。

 不審に思った美好は立ち上がると、「どちら様ー?」と言いながらノブに手を掛け扉を開く。

 細心の注意を払って。

「ちょっと、何か反応を示してもらわないと僕も対応に……ぃっ!?」

 突然の衝撃に美好は部屋の中央まで吹き飛ばされると、続けざまに何者かに腹を踏みつけられる。

「あら?これはまた、案外可愛い子がいるじゃないの。お姉さん、てっきり潰れたトマトみたいな奴がいるのかと思ったわ」

「げほっ……『ティアマト』……相変わらず、君は良い趣味をお持ちのようだね」

 美好はキッと自分を踏みつけている女を睨み付けると、とたんに霧化して彼女の拘束から逃れ出た。




  



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