「やぁやぁ、これはこれは茉淦さん。ご機嫌麗しゅう」
『……アンタに会ったせいで本当テンション下がったわよ。駄目紳士』
ラグナロクの拠点ともなるとある豪邸のエントランスにいた茉淦は、前方からやって来た檠與を見てあからさまな不快感を露にした。
「傷つくねぇ。おじさん、こう見えてもガラスのハートの持ち主なんだよ?」
わざとらしく傷ついたような仕草を見せる檠與に、蜂鳥の姿の茉淦はチチッと鳴きながら彼の回りを旋回する。
『もう、早く帰ってよ。私は忙しいんだから!』
「忙しい?何を言っているんだい、あなたは。杞微とかくれんぼをしているだけでしょうに」
『うっ……で、でも忙しいったら忙しいの!暇人な檠與の話には付き合っていられないわ!』
「へぇ……」
彼は低くそう呟くと、目の前を通り過ぎようとした茉淦をむんずと片手で掴み取る。
『きゃっ、何よ離しなさいよ!』
驚いた茉淦がバタバタと羽を動かして脱走を試みるも、大人相手にたかが鳥が逃げ出せるはずもなく、そのまま潔く諦める。
「いや、ここだけの話、とても良い情報があるんだよねぇ。……貴女にとっても」
檠與がニヤリと笑い、茉淦は沈黙を続けようとしたが、次の彼の言葉には反応せざるを得なかった。
「そろそろ壊れてきた頃なんだろう?君のオモチャも」
『……何が言いたいの』
檠與は茉淦を放すと、手に持ったステッキでカツカツと地面を叩いた。
「なあに、簡単さ。ただ私と一緒に行動してもらうだけで良い」
クツクツ笑いながら帽子を深く被った彼の表情は、残念にも陰に隠れて見ることは出来なかった。