元帥の思惑



 突然聞こえた“少年”の声に、会議室の中の面々は同時にドアの方向へと振り向く。

「ジジイ……」

 嫌そうに顔をしかめた香野が呟くと、少年はフン、と鼻を鳴らしながら『総』と掘られた椅子に着席した。

「珍しいですね、元帥。あなたが会議に出席なさるなんて」

「たまにはよかろう。……しかし香野、お前さんは相変わらず躾がなっていないようじゃのう」

「うっせ、ジジイはガキのくせに」

 彼の言う通り、見たところまだ幼さの残る顔立ちをした元帥がこのような言葉遣いをするのはあながちアンバランスと言えよう。

 しかし香野の実の上司に対する悪態に元帥はピクリと反応したものの、それはあえて聞かなかったこととして話を進める。

「話というのは他でもない。今回お前さんらにノルンの国へと出向いてもらう理由は、かの国の新しい王を我がグレイプニル騎士団に迎え入れるためだ」

「騎士団に……?相手は一国の王ですよ。そんなことが……第一、そんな普通の人間をだなんて……」

「何を言っておる」

 珀憂の疑問の声に、元帥が口を挟んだ。

 彼は知らなかったのか、とでも言うように驚いたように目を開けると、

「ノルンの国の新王、百埜(モノ)は歴とした先天性の神憑じゃぞ?」

「「「えっ……!?」」」

 彼の言葉に香野、美好、珀憂が驚きの声を上げる中、雅だけは呆れたように溜め息をついて、

「別に神憑が人間と同じように国を治めてることなんて、珍しくもないでしょうに……」

 と呟いていた。

「別にここまで強制的に連れてこいと言っている訳ではない。今はラグナロクとの戦闘のためにも、なるべく多くの人員が必要となるために一時的に共同戦線を図りたいだけじゃ。しかし交渉の際にくれぐれも機嫌を損ねさせられて断られたりされると困るのだが……」

 じろりと元帥が香野の方を見るが、当の彼は居心地の悪そうに目を反らす。

 元帥はため息をつきながら視線を戻すと、ガタリと席を立ち上がった。

「今回も指揮は珀憂、お前さんに任せる。準備ができ次第向かってくれ」

「えぇ。しかし、元帥は同伴なさらないのですか?」

 当然のような疑問を浮かべた珀憂の言葉に、ドアノブに手を掛けた元帥の動きがピタリと止まる。

「ん?」

 何か彼の様子がおかしいような……と香野が思ったのもつかの間、元帥は「仕事が残っておるからな」と言い残し、部屋を去っていってしまった。

「……気のせいか」

 香野は考えすぎだと思い直し、これから行う任務について、詳しい説明を始めた珀憂の話を聞くことにした。




  



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