掴められた朗報



 檠與(ケイト)は屋敷の中のとある一室で昼寝をしていた。

 シンプルでありながらも決して殺風景ではないその部屋でソファに寝転ぶ彼は、もう夏間際というにもかかわらず、冬同様全身を黒いコートで身を包んでいる。

「檠與、入るぞ」

 ノックする音が聞こえた後、彼の部屋にやってきたのは纉抖(サント)だった。檠與は起き上がらずに、目だけをドアの方へと向ける。

「おやおや、これはこれは。三兄弟のお兄様ではありませんか。本日は妹さんと弟さんは一緒じゃないようで」

「一人で来るようにと言ったのはお前の方だろう」

 檠與はやれやれといった様子で起き上がると、纉抖に座るように促した。

が、あいにくこの部屋には彼の座るソファ以外に座れるものはないようであり、皮肉なことに相対された机にも、がさつに並べられた紙屑が山をなしていた。

 彼はかまわない、とそのままの姿勢を保つ。

「あぁ、そうだったね。しっかしそんなにクールにして、夏が近いからって、頭の中までクールビズでもしてるのかい?あぁいや、別にウケを狙っている訳ではないのだよ。だってあなたがこんな……洒落にもなってないようなことで笑うはずがないからねぇ。あ、それより紅茶はいかがかな?最近ちょっと凝っててこういうおもてなしをするのにも……」

「無駄話はいいから、早く話を進めてくれ」

 朗々と語りを始める檠與に、纉抖は声を荒げることもなく、それでも凛と響く声で彼の演説を中断させた。

「おや、これはこれは失敬。つい一人で語ってしまったよ」

 檠與はさも悪気もの無いようにパチリと指を鳴らした。するとその音と同時に、彼の被っていた帽子が辺りに霧散する。

「それで、話なんだけどねぇ……あなた、“ノルンの国”って知ってるかい?」

「あぁ。この間王が亡くなり、その後継ぎが今は玉座を継いでいると聞いたが」

「そうそう、それだけ分かってれば十分だよ!で、そのノルンの国なんだがねぇ……これがまた、いるらしいんだよ」

 そこまで流暢に語っていた檠與が、もったいぶったように話を止め、紅茶を飲む。纉抖も特に急かすわけでもなく、ただそれを見つめていた。

 そしてしばらく間を置き、一息ついた後の檠與は、したり顔で続きを話しだした。

「君ら……ずっと探していたろう?」



「ラグナロクのボス、『フェンリル』を、さ」




  



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