手荒い歓迎会



「香野隊長!」

「ん?おぉー、お前ら。訓練はもう終わったのか」

 その後もしばらく先のようなやり取りを続けていると、ふと後ろの方から香野のことを呼ぶ声が上がった。――香野率いる五番隊の兵士達だ。

 彼は後ろを振り返ると、姿勢を整え敬礼をする一般兵達に手を上げる。すると彼らは腕を下ろし誰からともなくニヤニヤとした笑いを浮かべると、香野とその後ろで訝しげに眉を潜める遡琉を見やる。

「はい、もう昼間ともなればそりゃあいくらなんでも終わっていますよ。……でもそれより隊長、至急隊長に見せたいものが」

「?」

 いつもと少し様子の違う兵士達に香野は首を傾げるが、やがて「分かった」と言って部屋の鍵を遡琉へ投げ渡す。

「これ、俺の部屋の鍵。とりあえず誰かに案内させるから先に行っててくれ。すぐに戻るからよ」

「だから何で俺が……」

 口ではそう言うものの、彼は素直に鍵を受け取り、適当に指示を出して去っていく香野を見送ると同時に反転して歩き出した。

 部屋まで案内する役目を請け負った兵士が一人後を付いてきているが、彼は全く案内をすることはおろか、話し掛けてくる気すら毛頭無いらしい。職務をまっとうするつもりは無いのだろうか。

 そして遡琉はしばらくした所でおもむろに立ち止まると、そのまま深い溜め息を吐き出し――振り返ると共に抜刀した剣を兵士に突き付けた。

「ど、どうなされたのですか、遡琉様……!?」

 突然目の前に突き付けられた威嚇行為とも思える明確な敵意に兵士は一瞬たじろいだものの、引きつった笑みを浮かべながらそう問い掛ける。

「……お前、本当にここの兵士か。――違うだろ」

「っ!な、何を根拠にそんなこと……」

 明らかに狼狽える相手を見て、遡琉は勝ち誇ったような笑みを浮かべた。兵士が腰の剣へと手を伸ばす。

「ハッ、決まっている」

 だが、彼は相手が剣を抜く直前に体勢を低くしながら前に一歩を踏み出すと、そのまま渾身の一撃で相手の顎を蹴り上げた。



「もちろん――勘だ」



「っ……!」

 一瞬で敵を昏倒させた遡琉はそう言い放つと、相手の意識が無いことを確認した後にクルリと後ろを振り返った。

 彼の背後にはいつの間にやら今の騒ぎを聞き付けてやって来たらしい沢山の兵士達が集まっていたのだが、何か様子がおかしい。――それぞれが手に武器を握った彼らは、皆一様に目の焦点が合っていなかったのだ。

 ――あながち、俺の勘も半分は外れていなかった訳か……

 やはり相手は皆軍服に身を包んだグレイプニル騎士団の兵士達らしい。だか、それらが今はほとんど自分の敵であるということは一見すれば分かる。

 ――一体何が起こっているんだ……?

 今このオリーブの中で何かが起きていることは明らか。目の前のこいつらがこの状態ということは、先に行った香野の方にも――

「ずいぶんと手荒い歓迎会だぜ。全くよ……」

 遡琉は人知れず冷や汗を流した。




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テーマ「人外ファンタジー」
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