休暇中



「……で、揃いも揃ってここにやって来たという訳ですか。全く、これだからここの人間は
、騒々しい方々ばかりですねぇ……」

 ソファにふんぞり返りながらデスクに足を上げていた戯宮は、顔に乗せていた分厚い本を取るとこれ見よがしに深い溜め息をついて見せた。

 確かに、元帥を除いて先程まで会議室で話し合いをしていたメンバーが皆同じように押し掛けて来たのだ。呆れるのも無理は無い。

 たくさんの本が並んだ雅の部屋は、ほとんどが整頓されてキチンと本棚に並べられているようにも思えるが、よく見るとそこには収まりきらなかったらしい何冊かの本達が近くの床に置かれていた。

 しかしこれは、博識である彼のことを考えれば当然のことなのだろう。――ほとんどが黒魔術や怪しい実験に関する本だということを除けば。

「本当、悪趣味な部屋ですよぉ。こんないらない知識ばっかり身に付けて、少しは実験台にされるこっちの身も考えて……」

「おい、戯宮」

「はぁい、なんでしょう?」

 あくまでとぼけた表情で返答する戯宮に、珀憂は疲れたようにして眼鏡を外すと、少し力を入れて目頭を押さえた。

「すまないが長旅で疲れてるんだ。出来ることならいらぬ演説はいいから、まずは迅速に質問に答えてもらいたい」

「あはは、なるほど。ご老人にはやはりキツい旅路となりましたかぁ。まぁ、たまには静かに一人で過ごすのも良いかと思ったんですけどねぇ……一応私も怪我人ですし?」

「……こんな態度のデカい怪我人がいてたまるか」

 未だ包帯が巻かれたままの彼の体を見て、珀憂は一瞬本気で心配しかけたものの、そのらしからぬ振る舞いを思い出して首を振る。

「もう、つれないですねぇ。せっかく“飼い主”がいない時くらい好きにさせて下さいよぉ。大体ここの人間達は、もっと動物に優しくすべきであって……」

「あぁっ、そうだ!雅だよ、雅!戯宮、あいつが今どこにいるか通信してくれないか?ずっと連絡が来なくて心配してんだよ!」

 “飼い主”と聞いて、ふと心の奥底に溜めていた心配が爆発したらしい香野が身を乗りだし叫ぶ。

 戯宮は迷惑そうに顔をしかめた。

「ちょっと、頭に響くんであまり耳元で叫ばないで下さい!……というかそもそも、今はあんまりアクセスしたくないんですよねぇ。何者かに邪魔されているというか、自分の意思で視れなくなるというか……」

 そのまま彼は反り返る程に背もたれに寄りかかると、最終的には「嫌です」と拒否の意を示した。

「嫌とか言うなよー!俺だって、珀憂にこのことを聞いた時は正直お前に頼るなんて絶対嫌だと思ったけど、百歩……いや、千歩譲ってしょうがなく頼みに来てやったんだぞ!」

「いだだだっ、そこ怪我してるんですから触らないで下さいってばぁ!もう、分かったんでとりあえず離して下さい!」

 涙目で喚きながら香野が戯宮の肩を揺すると、彼は痛そうにバタバタと暴れながら香野を押し返した。その際に羽が少し散ってしまう。

「もう、どいつもこいつも本当にここ最近は手荒い人達ばかりで困りますねぇ……じゃあ、集中するんで少し静かにしてて下さいよぉ」

 そして彼は大きく息を吸い込み吐き出すと、そのまま目を閉じた。




  



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