本当の目的
そんな他愛ない会話もほどほどに会議は間もなく開始され、元帥を除いた五人は先のノルンの国での出来事、そしてオリーブでの抗争について話し出した。
「なるほど、フェンリルを逃してしまったというのは確かに、こちらにとってはかなりの痛手となるじゃろうな」
「あぁ……私が付いていながら本当にすまなかったと思っている」
「いや、珀憂のせいじゃねぇよ。俺がもっと強ければ……」
香野の言葉に全員が沈黙する。
ノルンの国に出向いていたメンバーも、オリーブに残っていたメンバーも皆思っていたのだ。自分達にもっと力があれば、ラグナロクの使徒を倒すことが出来たのではないかと。
その力の差を、改めて感じさせられた。
「それにしても、来夏のこともあるがそれよりもっと驚いたのはこっちの方だ。まさか本部にまで敵が来るとはな……美好と暮哭がいてくれて助かったよ」
「ユンユンが見つけてくれたお陰だよー。それに実際、戦ってくれたのは暮哭だしね」
美好はそう言ってチラリと彼女の方を見やるが、暮哭は気付いてないのか反応が無く、諦めて視線を前に戻した。
「でも、敵が一人だけでまだ良かったよー。もしあれで他にもいたらそれこそ危機的状況だったしねー」
「……いや、そこが疑問なんだ」
「えっ?」
美好の言葉に、珀憂が疑問の声を上げた。
全員からの注目が集まる中、彼は一人思案した様にして考え込むと、美好の方へ顔を上げる。
「美好、確かさっき敵は雲が発見したと言ったな?……ということは、少なくともお前と雲は外にいる相手の様子を見た訳だ」
「?そうだけど……」
「その時、本当に敵は“一人”だったのか?」
「!」
その場にいた全員の目が見開かれた。
なおも珀憂は続ける。
「もし、私達が此処を離れている間の襲撃が狙いだとすれば、いくら戯宮からの攻撃を受けたとしても、そいつの実力なら侵入くらい出来たはずだ。……これは、あまりにも諦めが早すぎる。まるで何か別の目的があったかのように……」
「あっ、そういえば……」
そこまで彼の推測を聞いていた暮哭が、何か思い出したのかハッとしたように声を上げた。
「あいつ、確か“目的は果たした”とか“余興やプレゼント”とか言ってたわ。あの時は何を言ってたのかは分からなかったけど……」
「やはり、何か仕組まれていたというのか……?しかし、だとしたら何を……」
目一杯頭を捻ってみるものの相手の思惑は皆目見当もつかず。今はこの場にはいない参謀の顔が目に浮かんだ。
すると、そんな様子の珀憂に気が付いたのか元帥はガタリと席を立ち上がると、彼に向かって声を投げ掛ける。
「お前さんら、そんなにも悩むならまずは初めに接触のあった戯宮にでも話を聞いたらどうじゃ?奴なら有力な情報を知ってるかもしれんぞ」
「そうか、戯宮なら……!」
「残りの調査はすまんがお前さんらに任せる。わしは確認したいことがあるから、暫くの間は部屋に籠らせてもらうとするよ」
元帥はそう言うと、周りの返事を聞かないうちにさっさと部屋を後にしてしまった。
首席の退室により自然とお開きになったその会議は、ここに来るまでのことを戯宮へ聞き込みを行うということで結論を出した。
そして一行は、現在不在の雅の部屋にいるという彼の元へと訪れることとなる。
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