夏強化月間 | ナノ


7月7日。あいにく天気は雨で、一年に一度しか逢うことの叶わない恋人達はどうやら今年も逢えないようだ。この時期は梅雨にあたるから去年も一昨年も雨だった。台風の来た年もある。
静雄が下駄箱でローファから上履きにはきかえていると、声を掛けられた。
「おう静雄」
「門田」
静雄は門田とは割に仲が良い。隣のクラスであまり接点はないのだけれど彼とは委員会が一緒なのだ。
「短冊書いた?」と尋ねられ、静雄は首を横に振った。
「結構みんな書いてるみたいだしせっかくだからお前も何か書いたら?」
そう門田が笑うのに静雄は玄関先に飾られた笹を見た。思ったよりもたくさんの短冊が飾られている。色紙に皆思い思いの願いを乗せていた。
昔は願い事はひとつだった。この冗談みたいな力がなくなりますように、誰も傷つけることがなくなりますように。いつも書くのはそればかりで、けれどそれが叶ったことは一度もない。
その願いは今でも変わらない。けれど今年は。
臨也は、何か書いただろうか。
なんでも手にしているように見える彼が一体どんな願い事をするのか、静雄は少し興味があった。
ふと見上げると他の短冊よりも少し高い位置にひとつだけ吊された短冊が目に入った。
丁寧に書かれた文字には見覚えがある。臨也のものだ。
それを目にして、内容を理解した瞬間、静雄は頬に熱が集まるのを感じた。まるで痺れたようにじんじんとする。胸のうちの深い場所を素手で捕まれたような、そんな気持ちになった。
「どうした?」
「門田、先、行っててくれ」
とても見せられた顔じゃない。静雄がそれだけ言うと彼は遅れるなよ、と言ってそこを立ち去った。
静雄はそっと手を伸ばしてその短冊を笹から外した。葉がゆれてさらさらと音を立てる。
二つ折りにして丁寧に胸ポケットにしまい、長方形に切られた色紙を一枚手に取った。置かれていたペンで素早く文字を書き付け、それも同じようにしまった。
今日、織り姫と彦星は逢えないだろう、残念だけれど。
けれど自分達は違う。一年に一度、それも空が晴れたら、なんて不確定な要素でしか逢えない恋人達とは違うのだ。
逢いたくなったら電話だってメールだって出来るし、すぐに相手のもとへ向かう足だって持っている。
たくさん話をしよう。直接逢って、それからもっとお互いのことを。
同じ気持ちでいるのだと、そう伝えたら臨也はどんな顔をするだろう。静雄はそのときを想像して少し笑った。
鞄から携帯電話を取りだしてアドレスを呼び出す。少し考えて文面を打った。
今日は雨だ。本物の星は見えないけれど、臨也と行ったあの場所なら。
星を見よう、それから話をしよう。もっと、もっとたくさん、これから。
今夜、きっと何かが変わる気がする。時間がかかるかも知れないけれど、それでも。
早くそのときが来ないかとそう思いながら静雄は目を上げる。次々に登校してくる生徒たち。小さな液晶画面を見つめながら嬉しそうに口許を緩める臨也の姿が見えるのと、携帯電話がメールの着信を知らせたのはほぼ同時だった。




おしまい
おそまつさまでした!

2011/07/07

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