夏強化月間 | ナノ


妹たちにねだられて駅前の花屋で笹を買った。腕に抱えるようにするとちょうど葉の部分が頬に触れてくすぐったい。緑の匂いがした。
妹たちはなにを願うのだろうか。たしか去年は兄である自分ともっと遊んで欲しいというような内容で、それを見て苦笑したことを臨也は思い出す。
そういえば先日出掛けた科学館の入口にも笹があった。あのときは短冊に願い事を書くなんてことに思い至らず、遠くから眺めるだけだったけれど、静雄がなにを願うのか知りたいと思った。
静雄との関係はいまだ不安定で手さぐりが続いている。
好きだと告げたのは事故に近かったし、まさかこんなことになるとは思わなかったのだ。
けれど彼はそれを受け入れ、臨也は突然やってきた恋のはじまりに戸惑った。嬉しくないわけではない。嬉しいに決まっている。相手の一挙手一投足をまるで祈るような気持ちでみつめるのは、けれど初めての経験で、一々それに胸が苦しくなった。



玄関のドアを開けると途端に妹たちが駆け寄ってきた。
「イザ兄おかえり!」
「おかえりなさい」
小さい手の平を伸ばしてまとわりついてくるのをあしらいながら笹を渡してやると彼女たちは歓声を上げてリビングへ引き返して行く。
テーブルの上には折り紙やら画用紙やらクレヨンやらが散らばっていて臨也は眉を寄せた。
「出すのはいいけどちゃんと片付けろよ」
「はーい」
「お兄ちゃん星つくって」
下の妹がそう言うのに臨也が「星?」と聞き返すと彼女は「てっぺんに飾るの」と答えた。
「クリスマスツリーじゃないんだぞ」
「でも飾りたいの」
「しょうがないなあ…」
無邪気にこちらを見上げてくるのに負けて臨也は椅子に腰掛けると折り紙で丁寧に星を折ってやった。
自分でつけるのだと言い張る妹を抱き上げてやって、そのあとでねだられるままに短冊づくりをした。
その段階になると妹たちは臨也から離れて座り、隠すように文字を書きはじめた。さきほどまであんなに煩かったのが嘘のように真剣なまなざしをしている。
頬杖をついてそれを眺めながら、そういえば学校の玄関先にも大きな笹が飾られていたな、と思い出した。
生徒会が企画したらしく、色とりどりの短冊が一緒に置かれ、自由に書いて良いことになっている。明日、書いてみようか。
願うことはもう決まっている。
静雄はもう書いただろうか。プラネタリウムに行ったときもプロジェクタの映し出す光に目を輝かせていたし、彼は意外と子供っぽいところがある。探してみるのも良いかも知れない。臨也はそう思い、微笑んだ。
妹たちは真剣な顔をしてまだクレヨンを握りしめている。きっと飾るまで見せてはくれないのだろう。
「ちゃんと片付けないとおやつなしだからな、」
臨也はそう言ってリビングを後にした。扉が閉まるころになってようやく上の空のような返事が返ってきて、臨也は苦く笑った。




続く

2011/07/06

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