夏強化月間 | ナノ


彼と仲が良かったことなんて一度もない。
顔を合わせれば殺し合いみたいな喧嘩ばかりしていて、まともに会話さえしたことがない。
それでもちょっとしたとき、例えば今みたいに突然の夕立にあって休戦をしたとき、そんなときにはぽつりぽつりと話をした。
新羅は俺達のことを良く仲良しだと言った。もちろん皮肉を込めて。そのたびになんとなくブルーな気分を味わった。その理由を俺は知っている。

埃っぽい匂いがあたりに立ち込めるとたいていはそれが休戦の合図だった。
どちらが言い出したわけでもない。
けれどお互いにずぶ濡れになるのは嫌だったし、そこまでして喧嘩を続けるのも馬鹿みたいだと思っていた。
彼の少し日に焼けた頬は赤みがさしていて、俺はそれに見惚れたりもした。今考えたらなんて幼かったのだろう、と思う。
小さな声で俺達は会話をした。
本のこと、音楽のこと、試験の話や、それからほんのごくわずかに、自分のこと。
雨のなかで見る彼の姿はどこか透き通って見えた。それがうつくしくてはかなくて、ずっといつでも、その時だけじゃあなく本当にいつも、俺はそのイメージだけを追い求めていた。
例えば眠る前、目を閉じるとそれが浮かんだし、例えば退屈な午後の教室、やわらかな光のなかでそれを見た。
誰が気のせいだなんて言えただろう。けれど俺はそれを奥底にしまい込んでいた。
乱反射する、激しい雨のあとで町を洗い流す強くやわらかな光のイメージ。
それはまぎれもないひとつの、そして唯一の想いだ。
あまりにも切実で、そのことに気づかずにいられたら良かった、とさえ思うような。

いつの間にか雨は上がって、雲間から細く光が差し込んでいる。
白いカッターシャツ、あかるい瞳、ちいさな声、爪のかたち、そうして青い俺達の。

思い出される幻のような記憶をなぞって俺はそっと微笑む。
そうだ、たしかにあれは恋だった。



BGM 仲良し

2011/06/24

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