「陽太、楽しかったね。本当はこんなはずじゃなかったのになぁ」
いつの間にか寝ていたようだった。目を覚ましたときにはすでに昼近くで、隣で身を寄せていた鵺が、いなかった。
「鵺!?」
祠に鵺はいなかった。
いつもなら祠の中にいるのに、鵺、どこいったんだよ、まってよ、今日で最後なのに、
俺は必死で鵺を探した。
森の入り口や二人でいった花畑、色々探しに行った。でも鵺は見つからないし、時間ばかりが過ぎていって…今日しかないのに…!!!
そして最後に行ったのは近くの池。
「鵺!!!」
池に仰向けに浮かんでいる鵺を見つけた。俺の声に反応して鵺はこちらを向いたけどいつもの顔じゃない、まるでほんものの鬼だった。こんなに怖い鵺をみるのは初めてだった。
祠でみつけたあの紙切れには“100年に一度、祠に縛られた鬼の子は人の子を身代わりにして祠から解放される、そして人の子は鬼の子になる”というものだった。その100年に一度の日が今日で、俺が鵺みたいに白髪になってきた意味もわかった。鵺が好きだから鵺のかわりになるのを決めたのに、鵺…
「もうどれくらい生きたのかもわからないんだ、今更ここから解放されたところでどうしろと…」
そう言って鵺は池の中に沈んでいった。やだ、やだよ鵺、いかないで。
服が濡れるとかそんなことはどうでもよくて、鵺を助けなきゃ
沈んでいく鵺の手を掴み水面にひっぱりあげると、鵺はさっきまでの姿とは違った。
真っ白だった髪の色が真っ黒になっている。
“100年に一度、祠に縛られた鬼の子は人の子を身代わりにして祠から解放される、そして人の子は鬼の子になる”
鵺もここにいた鬼の子のかわりになって鬼になったとしたら、元々は人の子。
もしかしたら俺が鬼になっていくにつれて鵺は人に戻っていくんじゃないか…
「鵺、ぬえっねぇ、鵺は人に戻れるんだよ、鵺」
うっすらと目を開く鵺は自分の髪の毛をみて小さく笑い、その手で俺の頬を優しく撫でてごめん、ごめんと言った。
すると鵺の体がどんどん痩せこけていき髪の毛もパラパラと抜け落ちていく。頬に添えられた手はガクガクと震えついには鵺の腕や頬の肉は腐ったように溶け出した。
「え、ぬ、え…何…何だよこれ…!!!!!」
骨が所々見えるようになり鵺の声もでなくなっていく。鵺はそんななかただこちらを悲しそうな目で見ているだけだった。
「よ、た…いつ、かまた、」
「鵺!!やだよ、なんなんだよ、鵺!!!」
声も完全にでなくなった鵺はニッコリ笑って俺に最後のキスをくれた。
キスが終わったとき、鵺の体は完全に崩れ落ち真っ白な骨だけが残り池の中に沈んでいく骨、ただ頭蓋骨だけを抱えて俺はひたすら涙をながす。
「鵺、ぬええぇっ!!!」
祠から解放され、最後に鵺は人に戻れたけど、しんでしまった。
鬼として何百年も生きた体は人間に戻ってその長い月日に耐えきれなくなり、最後に崩れて骨しかのこらない。
鵺は解放されたけど、こんなことになるなんて、
それから何十年も何百年もたった。
鬼の子の話を聞いた人の子が一人森の祠にたどりつき、腰を抜かして泣いている。人の子は10歳くらいの小さな子供。
俺はその子にただニコリ笑いかける。
そしてその子は俺に名前を聞いてきた。
「鵺」