村外れの森には鬼がいると誰かが言ってた。そんなの迷信、そう思ってた。
鵺(ぬえ)と会ったのはその森。
俺は鵺に恋をした。

「陽太は学校とやらに行かなくて良いのか?」
「んー、俺こう見えても頭いいんだよ!」

鵺は白髪で肌の色も白いし初めて見たときから人間とは違う何かを感じた。
様子を伺い距離をとる俺に鵺はニコリ笑ってみせた、とても綺麗。

それから毎日森へ通うようになり、気付けば俺のまわりにいた友達も離れていった。鬼に魂を奪われた哀れな子。
親も次第に俺を見てみぬふりをしていつしか俺をおいてどこかに引っ越していった。

でも俺には鵺がいるし全然気にならない。
親も友達もいなくなった俺は鵺がすんでいる祠に一緒に住む事にした。
そこにはもちろんテレビやゲームはないし、ましてや電気、水道なんてあるわけない。今の時代から考えれば不自由な生活だけどそれすらも全然気にならなかった。

「鵺は綺麗だね、どこもかしこも全部綺麗」

二人だけの生活でそういう関係になるのは早かった。
俺はまだ10代だし。鵺はわからないけど…話を聞いてる限りでは軽く200年くらいは生きているみたいだし。見た目は20代って感じかな。



「あ、ぁ…陽太、よ、たぁ」
「鵺、鵺、綺麗だよ。好き、好きだから、ぬえ…」

華奢な鵺は俺が抱いたら壊れちゃいそうで、愛しいと思う反面、不安で不安でこの祠の中の闇と一緒に消えちゃいそうで…
鵺と一緒にいるためのら、鵺が生きるためなら、鵺のためなら、なんだってできる。鵺が全てだから。

「陽、たぁ…」

白い肌に小さな紅い跡を何個も何個もつけていくことでしか、鵺に俺がいることを残せない。時間がたてば消えてしまうそれは俺の最大の愛情だから。
お互い求めあう事はあってもそれは互いのソレを扱いたり舐めたりするだけで、それ以上の事はない。



それは鵺がこの祠に縛られた鬼で人間とは関わりあってはいけないから。それがなぜなのかは知らないけど…
でも鵺が困ることは絶対にしたくないから、これでいいんだ。










気付けば鵺と一緒になってから半年くらいたった時、だんだん俺の髪の毛が白くなっていって、まるで鵺になったようだった。
鵺は毎日悲しそうな顔をするようになったし、俺はここにくる前の自分がわからなくなっていく。
本当に鵺だけが全てになる、そんな時だった。

鵺が近くの池に水を汲みに行っているとき、祠の奥、真っ暗で何も見えないところで何かをみつけた。
それは一枚の古ぼけた紙。
そこには古い字がかかれていて所々破けたりしていて読めないところもあるけど、文全体の意味は理解できた。
鵺が縛り付けられてる理由、そして鵺が解放される方法

俺にしかできないと思った。

「陽太ー、なにみて、…!」
「俺、鵺のためならなんだってできるよ。明日だろ?鵺、明日から自由だよ」

100年に一度の機会。
それが明日だった。

「だから今日はずっと一緒にいよう、ずっと」

鵺は何も言わない。
ただ最初に会ったときみたいにニコリと笑ってみせた。
鵺はやっぱり綺麗だね。

その日の夜は互いを求めあうこともせずずっと手を繋いで祠の外で空を眺めていた。
その時間がとてもゆっくり流れているようで、とても心地がいい。時間が止まったのかと間違う程だった。
こんなに静かな夜は久しぶりで、なんだか緊張もする。


明日だよ、鵺。














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