金づちで殴られた痛みと共に、不意に光が飛び込んできた。
次の瞬間には靄がかかったような視界、そして見慣れた幼馴染のぴかぴかと眩しい糸が瞳に映る。

「先生はまだ来られんのかって……おお、やっと起きよった。白石ー、京が起きたわ」
「そらよかった! ……ちゅうかお前幼馴染にそれでええんか」
「幼馴染だからこそやろ、なぁ?」
「……ど阿呆が」
「お、おい大丈夫か?」

間もなく詳細な情報が視界に入ってくるようになると、此処が見知った保健室のベッドの上であることを認識した俺は殆ど無意識で身体を起こした。
すると、その音に吊られるようにして幼馴染は俺の方に顔を向けるとさぞかし驚いたとでも言うような表情を浮かべてベッドからは二、三メートルほど離れた位置にある教員用の机の方に向かって声を上げた。
カーテン越しで姿は把握できないが、そこに居たのはどうやら白石くんだったようで、幼馴染に対して呆れたような声を上げる。
そんな白石くんの言葉にへらへらと締りのない笑みを浮かべる幼馴染に対し頭を抱えれば急に心配そうな情けない声でそれは俺の顔を覗き込んできた。

「大丈夫や阿呆」
「大丈夫なわけないやろうが阿呆、鏡見てから言え」
「はぁ?」

大丈夫かと聞いておいてそれは無いだろうと思ったが、それよりも徐々に思い出してきた物理的に痛い記憶の所為で主に頭と右腕が大丈夫では無くなってきた。
そう言えば先輩等にたこ殴りにされたんやったな……と包帯が綺麗に巻かれた腕を見つめる。

「大丈夫やないな」
「そうやろ、全く財前が見つけてくれんかったらお前今頃雨にうたれとったんやで」
「光が?」
「せやで、京君は財前に感謝せなあかんなあ」

そう言えば外の方からは割と強い音で雨音が聞こえる。
体育館裏にいたのだから気付かれなくても可笑しくは無い話だ。
だというのに光は何故俺を見つけることが出来たのだろうかと疑問に思ったが、ベッドと保健室を遮っていたカーテンを開けて嫌味の無い綺麗な笑顔を向けた白石君に言われた言葉により、そんなことよりも言わなければならないことがあることに気付きそんな疑問は記憶の片隅に追いやられていった。

「せやな、光にはあとでお礼言わんと……ああそれから、白石くんも包帯ありがとうな、巻いてくれたんやろ?」

右腕をわずかに動かして尋ねれば、白石くんは「どういたしまして」と微笑んだ。



「まぁ身体は大丈夫そうやけど雨降っとるしなんかあったらあかんから今日は俺が送ってくわ」
「……まぁ、しゃあないわな」
「俺にもちょっとは感謝しろや」
「ケンヤクンアリガトー」
「しばく」

暫くして今が4時間目の授業中で、保健室の先生は留守、喧嘩云々の出来事だから病院も連れて行くのは止そうと勝手に話を決められていたことを聞くと、昼食が始まる前に帰宅することにした。
流石に頭と右腕、それから服の中も包帯ぐるぐるで授業に出るわけにもいかないという訳である。
一応歩けるが、何かあってからでは遅いということで雨の中幼馴染である謙也に送ってもらうということを決めて保健室を出た。
口ではこんなことを言ってはいるがさぞ心配してくれたであろう謙也に心の中で感謝をして俺達は学校を出た。



カラカラカラカラ。
そんな金属音は雨に消えて聞こえはしなかったのだ。





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