「京くん、一緒にご飯食べへん?」
「おん、ええよー光」
「やった! ほなら、今日は屋上いこ?」

今笑顔で俺の在籍するクラスまでやってきた彼、財前光と人生生きている中ではなかなか経験できない方法で出会って僅か二週間。
たった一度一応先輩にあたる人間から助けてやったとはいえ、俺は自他共に認められてしまうほど光に懐かれていた。

「財前に懐かれるなんてほんま羨ましいわ」
「そうねえ、まだ私たちには全然心開いてくれてへんし」

そんなことを言うのは俺の数少ない友人であるテニス部のクラスメイト達だ。
羨ましい妬ましいというのを声にも態度にも表してくる二人をあしらうのは面倒だが、彼らのいう通り、なぜだか光は俺に懐くばかりでほかのテニス部の二、三年には懐く態度を見せないらしい。
割と簡単に仲良くなれた俺は、彼らがそう言う理由が最初は分からなかったが、光と会話を進めていくうちに、俺の方が可笑しい例なのだということを理解したのだ。
しかし、自分がなかなか人から好かれにくい人間だと自覚している俺としては、初めてできた可愛い後輩に不信感など持つ筈も無く、むしろ喜び浮かれながら本日も光と昼食を共にする。



光に手を引かれ、人気の無い屋上に到着した俺たちは風の少ない給水塔の近くに座り込むと、お互い昼飯を取り出した。
ちゃんと弁当を作ってもらっている光に比べ、今日の俺の昼食はかなり寂しいものではあるが……。

「京くん今日は何食べるん?」
「あー……おかんが寝坊してな、今日は購買のパンや」
「ほなら、俺の弁当わけたるわ」
「ええんか?」

それに光は笑顔で頷くと、自分の弁当箱から綺麗に焼けている卵焼きを箸で持ち迷いなく俺に差し出してきた。
それは所謂「あーん」という体制であり、たかが先輩後輩の関係である俺達の間では絶対に行われない筈の行為である。
確かに購買のパン一つや二つでは成長期の真っただ中にある俺の空腹を満たせない。
しかし、それを満たすために男同士でなぜこんなことをしなければならないのかという思いが頭の中を駆け巡る。
口で卵焼きを受け取らない俺を不思議に思ったのだろう、男にしては可愛らしいという褒め方の方が似合う顔を悲しそうに顰めて光は首を傾げてきた。
態となのか本気なのかは分からないが、そのような表情をされてしまうと自分が悪いことをしている気分になってしまう。

「京くんどうしたん? 卵焼き嫌いやった……?」
「いや、ちゃうわ」

誰も見ていない誰も見ていない、此処には俺と光しか居ない。
そんな暗示を頭の中で掛けながら光の差し出す卵焼きを口に含むと、視界には何故か嬉しそうに頬を赤く染める光の姿。口の中には少し甘い美味しい卵焼きの味が広がった。

「京くん、美味しい?」
「おん、美味いわ」
「よかったっ!」

心配そうに俺の表情を伺う光にうなずいてみせる。
すると光は本当に幸せそうに、嬉しそうに笑うので俺はそれで良かったと思ってしまった。
初めて自分に懐いてくれた後輩が楽しいならそれで良いと、俺も嬉しいと、そう考えてしまっていたのだ。



その所為で光がどんどん可笑しくなってしまっていただなど、何も知らないで、気付かないでいた。
光が本格的に壊れ始めたその年の冬まで、俺はお気楽な毎日を過ごしていたのだ。





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