「あら、一季ちゃんどうしたん? そない暗い顔しよって」
「小春ちゃんしかおらんのか……」
「せやで?」

やけに重い足取りで生徒会室にやってきた我が校の生徒会長は、顔面蒼白で今にも死にそうだという珍しい表情であった。
彼は生徒会室の中に私しか居ないと分かるや否や、私の座っている方とは机を挟んで反対側に置いてある長めのソファに腰を下ろし、そのまま横になると大きく息を吐いた。

「ほんま何があったん?」
「……小春ちゃんは、今日転校してきた女の子知っとる?」

「俺のクラスに来たんやけど」と続ける一季ちゃんの表情は余りにもすぐれない。
転校生が来るというのはクラスの誰かが言っていたので知っていたが、一季ちゃんの居るクラスだということは知らなかった。
ということは、この疲れているのは転校生の案内を先生に頼まれたからとかその辺りだろうか、と予想を立ててみるがどう見てもそれだけの疲れには思えない。

「一季ちゃんのクラスやったんか、転校生きたんは」
「せや、んで俺が案内とかやれ言われて来たんやけど……」
「その転校生になんかあったん?」

普段はどんなことも軽やかに笑って済ましてしまう一季ちゃんの表情が明らかに参っていますと顔に出ているのだ、転校生が何か大層な問題のある子なのだろうと思いながら首を傾げれば、目を見開き、心底驚いたという表情を私に向けてきた。
どうやら自分の表情を隠せていたと思っていたらしい生徒会長は、本日に限りさまざまな表情を私に向けてくれる。

「そない分かりやすい顔しとった?」
「今にも死にそうな顔しとるわ……で、ほんま何が合ったんや?」
「転校生がやたら色々聞いてきてしつこかったん」
「今ばっかりは隠しても無駄や、そんで?」
「…………」

視線でこれ以上は喋りたくないと語ってくる一季ちゃんに対しにこりと笑顔を送る。
すると「小春ちゃんには敵わんわ」と顔をソファに埋めた彼は、降参とばかりに両手を上げた。

「白石と忍足がな……なんや知らんけど転校生を気にいっとるんよ、テニス部のマネジやるとも言っとったし」
「あの二人が気に入っるなんて、なんやその子ごっつ可愛かったん?」
「あれに惚れるくらいなら俺は小春ちゃんに結婚申し込むわ」
「そんな子に勝っても嬉しないわ阿呆」

「忍足はともかく白石まであんななるん可笑しいわ……」耳をすませなければ聞こえないような小さな声は、多少なりと怒気をはらんでいるようで、あまりに普段と違う彼の態度に私は思わず噴き出した。
幼馴染とはいえそんなに心配してくれる人間がいることに、少し我等が部長のことが羨ましくて、心配する彼の幼馴染を少し可愛らしいと思った。
そんな私の姿を、再び顔を上げた一季ちゃんはジトリと見つめてくる。

「なんやねん……」
「一季ちゃんったら思ったよりも蔵りんのこと好きなんやなと思ってな」
「あほ抜かせ、そんなことあるわけないやろ」
「そんな一季ちゃんに提案や」
「話聞けや」

赤面もせずどもりもせずにジト目のまま返してきた可愛げのなさにまた吹き出しそうになったが、そこはぐっと堪えて目を合わせた。
何をされると思ったのだろうか、ひくりと口の端を持ち上げた一季ちゃんは、先ほどよりもまともな顔の色をしていたので何をされるのか思ったのか考えないであげることにする。

「一季ちゃん、テニス部に密着取材してみる気ない?」
「は……?」
「その転校生、一季ちゃんの話やとテニス部のマネジやる流れになっとるんやろ?」

私の言いたいことが伝わったのだろう、みるみるうちに普段からみる優しげな笑みに変わっていく我が校の生徒会長の姿には、さきほどの死にそうな雰囲気など皆無であった。



第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -