「そんで此処が図書館な」
「広いねぇ……あ、そうだ一季くん」
「なんや? 礼花ちゃん」

優しく親切な生徒会長である俺が一生忘れることなく一生俺に迷惑をかけることなく移動してもらうように事細かく学校内を案内しているというのに、この女は一向に話を聞かず、やたらとテニス部についての話をしてきた。
今だってそうだ。

「あの、一季くんって白石君や忍足君と仲良いの?」
「んー、まあ二人ともクラスメートやしな、仲は良い方やな」
「そうなんだぁ」

この女、やたらと白石と忍足について探ってきた。
確かにテニス部は頭は残念でもやたらと顔の良い人間が揃っている。
俺が部長を務める新聞部にもテニス部のファンは多いし、学校全体を見てもテニス部にファンは多い。
顔の良さに気になると言う気持ちがあることは理解するが、この女の場合それが異常なのだ。
転校してきたばかりの人間だというのにこの女、テニス部のレギュラーについては今の白石と忍足について含めて全員聞いてきた。
三年の事を聞くだけならまだしも、二年で公式戦の少ない財前や、公式戦にまだ一度も出ていない遠山についても尋ねて来て、この女は異常だと確信せざるをえない。

「でも一季くんって何でも知ってるのね!」
「おん、これでも俺は新聞部の部長やからな、部活の事はリサーチ済みや」
「新聞部なんだぁっ、それじゃあ白石君と同じ部活なんだね!」
「(せやからなんでお前が知っとるん!)」

両手を合わせてにこりと明らかに作り物だと分かる笑顔を向けられて、頷くことしかできない。
イカレているキチガイだと、そうとしか思えない。
この女は危険だ、頭の中で警鐘が鳴り、頭痛がする。

「なんで礼花ちゃんはそないなこと知っとるん?」
「えっ? えっとね、先生が教えてくれたの!」
「ああ、そうなんか、納得したわ」

納得できるかど阿呆。先公がそんなことまで教えるわけないだろうに、この女はうまく切り返せたと思っているのかにこりと可愛げもない笑みを浮かべた。
イカレていて、キチガイで、脳みそクルクルパー、そんな女、誰も相手しないだろう。相手にする筈も無い。
だというのに、

「一季! ずっと礼花ちゃんと話とるとかお前ずるいわー」
「お前今日生徒会の仕事ある言うてたやろ! こっからは俺らが変わったる」
「おー……そうやったな、んじゃあこっからは白石と忍足に頼むわ」

何故だか彼らは、この女に惹かれているのだ。
ぶらぶらと歩いていたらしい白石と忍足は、俺と女を見つけたと言わんばかりに近寄ってきた。
お前等この女キチガイやぞ、そういうことも出来ただろうが、どう見ても可笑しい彼らの様子に声を出すこともできない。
そんな可笑しな空間のなかに居たいとも思わず、一先ず俺はこの女を二人に預けてさっさと生徒会室に逃げることにした。

「私、テニス部のマネージャーやりたいんだぁ」

キチガイ女のやけに響く気色の悪い声が聞こえ、腹の中のもやもやは溜まる一方だ。



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