放課後のことだ。
割と頻繁に起こる俺と彼の放課後のできごと。

「名前」
「うん、なんや蔵ノ介」
「名前」

周りから完璧だと言われ続ける俺の恋人は、酷く脆く、壊れやすい可哀想な人間である。
普段は強く強く在ろうとする反面、ふとした出来事が起こるとあっという間に崩れてしまう。
今がそう、俺よりも大きいはずの恋人は、身体を小さく縮こまらせて俺に抱きしめられている。

「蔵ノ介、誰か来てしまうよ」
「名前」
「俺ん家に行こうや、そうしたら誰にも見られへん」

場所は学校で、自分たちが授業を受ける三年二組の教室内だ。
なんでもない唯同じクラスで部活が同じというだけの人間と、あの白石蔵ノ介が抱きしめあっていたなどと噂されてみろ、俺はともかく彼には何らかの悪影響が出てしまう筈だ。
全国大会前にそんな騒ぎになることは避けたい。
そんなことを思いながらの言葉だったのだが、彼は首を小さく横に振ると形の良い頭を俺の腹に押し付けてきた。

「いやや……このまま名前と死ぬ」
「俺はまだ死にたないなぁ」
「このまま名前と消える」
「消えたくもないわぁ」

小さな声で名前を呼ばれる。
彼はたびたびこんな状態になることがあるが、どうしてそうなるのか俺は知らない。
本人に聞いても答えないし、俺にはそんな彼の変化を察する力など持っていないからだ。

「誰かになんか言われたんか?」
「……ちゃう」
「ほんなら、今日は何があったん?」
「……名前」

我ながら悪い恋人だとは思っている。
もぞもぞと小さく動き顔を上げた彼の表情は、今日もまた何故こうなってしまったのか分からない俺を責める様だ。
そんな表情を見るのがいたたまれず、誤魔化すように俺は彼の綺麗な唇に口付けをする。

「ごめんな、蔵ノ介」
「ええよ、名前がそういう人間やて付き合う前から知っとるから」

一度、強く抱きしめてやる。
すると彼は花が咲くように美しい笑顔を俺に向けてくるのだ。

「名前、好きや」
「俺も」

そんなよくある、俺と彼の放課後のできごと。





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