8月某日、快晴

 


家族連れも多いプールは、比較的水位が低かった。
160ちょっとくらいしかないなめこも、余裕で立っていられるくらい。
暫くは空いたところでボールを叩き合ったりしていたはずだったのだけど。
プールサイドの近くで縁に背を預け、ぷかぷか浮いているボールを眺めながら。

「……昔さあ」
「うん」
「小学校のプールで水鉄砲やったのね。これ」

これ、と言いながら、組んだ両手の中から細く水を飛ばしてきた。
相槌をうちながらばしゃんと水をかけ返して続きを促す。

「ほら、まだあの頃って私達アレだったじゃん?」
「……まあね」
「たったこんだけだったのに、暴走が出ちゃったもんで、10秒くらいの追尾ミサイルみたいになっちゃったことあってさ」
「なにそれお前こわっ」
「今なら意図的に1分は追い回せる」
「やめろ」

小学校時代にあまりいい思い出がないもので、ほんの少ししんみりしてしまうような昔話かと思いきや、とんでも無いやんちゃ話だった。しかも質の悪い方にレベルアップしようとしている。

けたけた笑って、こんなとこではしないよ、なんて言ったが、どんなところでする気があるのか。あまり聞きたくはない。

溜め息を零す俺にお構い無しに、なめこはざぶんと豪快に縁に足を掛けながら水からあがって。
かき氷食べたくなっちゃった、とぺたぺた売店に走っていった。

「え、ほんとにいいの? お兄さんのおごり?」
「お姉さん可愛いからね!」
「やははありがと! あっ、練乳たっぷり目でお願いしまーす!」
「はいはい、甘党なんだね〜」

ボールを小脇に抱えて追いつくと、売店のカウンターで、大学生のアルバイトのような調子のいい店員と、なめこがやたら打ち解けていた。

「はい、イチゴに練乳たっぷり」
「ありがとうございまーす」
「ところでお姉さん、今日は誰と……」
「買った?」
「あっ、英。うん、ちゃんと練乳たっぷりにしてもらったよ〜。しかもお兄さんが奢ってくれた。あっ、ストローもう一本下さい」
「えっ、ああはいよ! ありがとうございました!」

席を探すのにカウンターに背を向けると、「なんだよ彼氏いたのかよ……」なんてボヤく声が聞こえた。
(実際俺達は違うけど、こんなカップルだらけのプール内で独り身の女探すなよ……)

誰も彼も、夏に浮かれすぎている。

「英の為に練乳たっぷりにしてもらったよ」
「よく覚えてたな」
「だって昔見たイチゴシロップが白でコーティングされた衝撃忘れらんなくて」

イチゴシロップのかき氷、しかし表面が殆ど白い。うっすらとピンクに見えるので、とりあえずイチゴだろうな、というレベル。
そんなサービス精神旺盛な山盛りかき氷を、両側からストローで崩して食べることに既視感を覚える。

その感覚に、距離感てのは、変わったように思えても実は変わってないものだな、なんて。


 



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テーマ「人外ファンタジー」
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