8月某日、曇り

 


「お邪魔しまーす! おばさん、お久しぶりです!」
「あらー! 久しぶりねえなめこちゃんいらっしゃい! もー、あの子ったら夏休みだからってまだ寝てるのよ」

階下から聞こえるいつもより高い母の声に、起きてるよ、とボヤいた。
とはいえ、未だベッドから起き上がってはいない。

部屋の隅には昨日持ち帰ったトランクがそのまま放り出されているし、なにしろ一年の殆どを空けている所為か、近頃中々自室に馴染めなくなっていた。

たんたんたん、と軽い足取りで階段を上がってくる音がする。
なめこだ。

顔だけ部屋の扉に向けると。

「おっはよー英。どーせ起きてんでしょ〜」
「…………せめてノックぐらいしろよ」

あまりにも遠慮無く、扉は開け放たれた。
同じ学校に通うことになって早4年目、今年になってようやくそれを知らしめて、昔の蟠りを解いた頃から。彼女は繕っていた(そしていつの間にかそれが普通になっていた)、他人行儀な姿を捨てたらしかった。
しかしどうせなら、もう少しは遠慮を覚えていてくれたって良かったと思う。

「……で、なに」
「いや特には何もないんだけどさ。でもマグルの友達近所にあんたしか居ないんだよね私」
「知ってる」
「あっそびーましょ」
「俺課題やりたいんだけど……」

普通のマグルの学校とはシステムが違う。
8月いっぱいだった夏休みは9月いっぱいで、夏休みの始まりは8月の始めから。大学と同じようなシステムだ。
……だったのだが。
残念ながら、クイディッチの選手は交流会でうち2週間程が潰れた。たかが2週間、されど2週間。
長い休みの間に出される課題は鬼のようで、特に科目数の多い一年は尚更。
気付いたら9月末になって終わらない課題がある、なんて避けたい事態だ。

「あーそっか。じゃあ宿題しよう。私自分の取ってくる」
「おう」

回れ右をして部屋を出るなめこを見送って、俺もなにか食べてからにしようと、朝の10時を回った頃、ようやくベッドから起き上がった。


 



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