8月某日、晴れ

 


「あ゙あ゙っづ……屋内なのになんか熱気やばい……」
「今回あっちは人数少なかったしな…………おい、ずんだは?」
「あっやべっ」
「…………」

東京都、東京駅新幹線某改札口側。
大きなトランクを引く二人の男女の姿があった。

男―――国見の言葉にとんでもない忘れ物に気付き、女―――なめこは慌てて背後の壁の中へ駆けていった。
……そう、文字通り、壁の中へ。

壁の向こうは骨組み鉄筋コンクリートがあるわけではない。それはあるだろうが、彼らのような"魔法使い"の為の学校へ続く汽車のホームが広がっている。
あたりにはまだ何人か彼らと同じ汽車から降りた学友の姿があり、何人かは挙動不審だった。

(どうせマグルの中に紛れなきゃいけないんだから……ああいうの見てたらほんと逆にマグル出身で良かったわ)

構内図を見て頭を抱えていたり、周りに気が回らず大きなトランクを引く姿が邪魔になっていたり、ちょっとばかり、格好を失敗していたり。
あんな悪目立ちはしたくないなと見知った幾つかの顔を遠巻きに眺めていると、壁を抜けてきた音とバサバサと羽ばたく音がして振り向く。

「おかえり」
「ただいま。あー、もー、ゴメンって! 私が悪かったよ!」

比較的小さな鳥籠の中、なめこの愛鳥、ずんだは非常にご立腹だった。汽車を降りたところで手荷物を纏めようと一度床に置いてしまってから、そのまま忘れられていたのだから無理もない。

「あ、おじさんが迎えに来てくれてるって。英も一緒につれて帰るってさ」
「えー……あー……うん……」
「四時間はキツい?」

思わず取った微妙な反応に、なめこは幼馴染みの心境をぴたりと言い当てた。
なめこのずんだや、二人のトランクのことを考えると、公共交通機関は厳しいものがある。
かと言って車は長い道のりになる。

まあくつろいでいられる4時間と、否が応でも周りを気にしなければならない2時間では、前者の方が楽か。

「……いや、大丈夫。おじさんは?」
「うん、ここまで迎えに来てくれるって……あっ!」

人混みを縫ってくる柔和な顔付きの男が、なめことほぼ同時に気が付いてにこやかに片手を上げた。
ガタゴトとトランクを引いて二人が近付いていけば、男は笑みを深くして。

「おかえりなめこ! 英くんも、久しぶりだねえ、おかえりなさい」
「ただいま」
「お久しぶりです。わざわざありがとうございます」
「いやいや、いいんだ、どうせ最初から最後まで同じ道のりさ」

お隣さんだからねとカラカラ笑う叔父に、なめこも笑った。
じゃあ行こうか、と言った叔父の視線が、なめこの向こう側で固定された事に気付いて振り向くと。

少し離れた場所、人混みから頭一つ出た寝癖頭と、その隣にチラチラ見えるプリン頭。
ぺこりと叔父に頭を下げて、なめこにはニッと笑いかけて、逆の方向へ歩いていく。

「まったく、誰も彼も大きくなったものだな」

何故かどこか誇らしげに呟く叔父が、じゃあ今度こそ行こう、と歩き出したのについて行く。

少し遅いが、ようやく彼らの夏が、始まる。


 



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