公認ストーカー
地元の小さな会社の事務。私が就職した場所で、意外にも年の近い先輩達も多く、気さくな人達で、仲良くして貰っていた。
そんな中、とある一人の先輩の言葉が始まりで。
「なんか……最近おかしくない?」
「どうしたのよあんた」
「出社するときに誰かの視線を感じるし、帰るときも誰かの気配がするのよ」
「ええっ? 先輩、もしかしてそれは、す、ストーカー……じゃあ?」
恐る恐る言った私の言葉に、ゆるゆると首を振った。
後を付けられているような気配は無く、会社の側でだけだと言う。
そういえば、と別の先輩も同じような感覚はあると言い始め、もしかしたらこの会社、女子が多いので変な輩に目を付けられているのではないのか、なんて話にまで発展した時。
「見つけたわよ! あんたね最近うちの周りうろついてるやつ! ちょっと顔が良くったって、不審者には容赦しないんだから!」
会社の外から、銀行に行っていた先輩の声がして、思わずみんなで外に出てみる、と。
「みんな、最近会社の周りで変な感じしてなかった? こいつよこいつ! ジッと事務所を見上げたりなんかして……!」
「あの、すみません俺」
「たっ……辰也くん……!?」
「あ、なめこさん」
「……え、エリンギちゃん知り合い?」
きっと眦をつり上げていた先輩達の表情が一瞬にして呆けた。
なんということでしょう、穴があったら入りたい。
「すみません……え、えと、私の同居人で……私になにか用事が……?」
「えっ!? あ、じゃあもしかしてうちに来たの初めての人!? やだ私ったらごめんなさ……」
「あ、いえ、最近ずっと朝と夕方はこの辺にいました」
「……辰也くん? ど、どういう……?」
混乱する私達に、彼は何故かはにかんで。
「なめこさんが就職してしまってから会える時間が前より減ったのがなんとなく寂しくて。でも送り迎えもさせてくれないし、帰りなんて特になにかあったらいけないのに……だから授業の無い時間はこっそりなめこさんの近くに居ようかなって思ってたんですが」
とうとう見つかってしまいました。
ああ……先輩達からの視線が痛い……。優しい先輩達とはいえ女であるし、お前みたいなブスがこんなイケメンと付き合ってんのかよという視線だろうか、もしくはお前の所為かよって奴だろうか……どっちにしろ辛い。
この中では一番の先輩がはああ、と溜息を吐いた。
「……そういえば、会社の外で視線を感じたのはエリンギちゃんが一緒の時だったわ」
「あー……そういや私も、エリンギちゃんが先に上がった時は会社の周りでなんの気配も感じなかった」
「ごっ、ご迷惑をおかけしてすみません……!」
「いやいや、エリンギちゃんは悪くないから。ただ君ね」
くるっと彼の方を振り向いたかと思うと、ビシッと指を突き付けて。
「そういう事なら次からはもっと堂々といらっしゃい、紛らわしいわね!」
「すみません、そうします」
「えっ」
「はー、撤収撤収」
ぞろぞろと社内に引き上げていく先輩と、携帯のアラームが鳴り始めて「俺もそろそろ授業に行きますね、また来ます」なんて爽やかに笑って去った彼になんだか酷い置いてけぼりを食らったような気がしたが。
なぜか、それから。
「あ、エリンギちゃん来たわよ」
「ほんとだまた来てる」
「毎日隣の公園で飽きないわねー」
「あれほんと、事情知らなきゃストーカーだわね」
「おーいストーカーくん、今日エリンギちゃん5時上がりだよー」
「ちょっ、せんぱ」
「本当ですか、ありがとうございます!」
「ストーカー否定しなかったよ彼」
「辰也くん……」
先輩達が妙に、彼に協力的になってしまった。