⇒匿名様
枕の下で震える携帯を適当に弄ってバイブを止める。のそりと起き上がれば、隣の男はやっぱり枕で頭を包み込むようにして寝ている。
たまにこのバイブで起きることもあるけど、今日は熟睡してるらしい。なぜって、枕と襟足の隙間から見える首筋が白いから。
意地でも狸寝入りをしていたって、私が起きた事に気付いて自分も起きてしまったら、それはもう面白いくらい首筋まで赤くなるから。
だから今日は、まだ寝ているみたいだ。
まあ昨日は疲れていたみたいだし、久しぶりだったから仕方ないかと思いながら。
「いい加減、慣れたらいいのに」
昨晩脱ぎ捨てたシャツを羽織って、他の衣類も拾い集めながらぼそりとボヤいた。
私は色々明け透け過ぎるとか、そう言うことも言われるし多少は思うけど。黒尾の方がああも恥ずかしがるのでは、私が恥ずかしがったり躊躇ったりする余地が無いようにも思う。
シャワーを浴びてサッパリして寝室に戻れば、下着だけでぼんやりした顔のままベッドに座り込んでいる黒尾が居た。
「おはよ」
「あー……おう」
「シャワー浴びる? お風呂浸かりたい?」
「シャワーでいい……つか水くれ」
「ん」
持っていたペットボトルを渡すと、見事に全部飲まれてしまった。このやろう……。
「飯、外行こうぜ。シャワー浴びてくっから適当に服着てろ」
「はいはい」
「……エリンギ」
「ん? なに?」
柔らかいペットボトルをぐしゃりと潰しながらの返事に視線を感じて、立ち上がった彼を見上げたら。
依然、じっとこちらを見ながら沈黙10秒。それから。
「……だいぶ声、嗄れてんな」
ふ、と笑みを零して指先で顎の下を撫でていった。
予想しなかった動きにぽかんとした私を気にすることなく、俺の着替えも適当に出しといてなんて言って洗面所に向かう黒尾の背中を見送って。
バタンとその扉が閉まる音を聞いてから。
「…………えっ、なに、今の」
どうしちゃったんだ急に、と思いながらも着替えを出すためにクローゼットを開いたら。扉の裏にあった鏡に映った自分の顔が今まで見たこと無いくらい赤かったし、ついでに黒尾の指先が撫でていったところは鬱血した跡があって。
「あ……い、つ。……隠せないんだけど、こんな所」
髪は短いし、ファンデーションやコンシーラーも暫くしたら崩れてしまうし、絆創膏を貼ったらあからさまだ。
普通にしていたら見えないかも知れないけれど、人より身長の高い私だから、見上げられたら見えてしまう。
「わざとか……? あの馬鹿」
鬱血の跡を指先で撫でながら、黒尾の出て行った扉を睨みながらボヤいた。
当然、帰ってくる答えはないわけだけど。
どうせ今、風呂場で我に返って一人でのたうち回っているだろう黒尾の服を適当に引っ張り出しながら、この借りをどう返してやろうかと逡巡させるのだった。