⇒きなこ餅様

 


黒子テツヤはとても淡白な少年である。
それが周囲の人々の印象であるし、本人も面と向かってそれを否定したりしないだろう。

淡々としていて、しかしそれでいて負けず嫌いで、ことバスケにおいてのみ熱っぽさを発揮する。

男子高校生、いわゆるお年頃な彼でも、例えば部室から誰の物と知れぬいかがわしい本が出ようと、カントクは「黒子くんじゃないわね」、と真っ先に捜査対象から外される。そのくらい、存在感以上に欲の薄そうな雰囲気を併せ持つ彼であったが。

「あれ、黒子くん?」
「エリンギさん」

しかし彼もお年頃であった。

仲間との部活帰り、ばったりと会った同じ誠凛学園の制服の女子に駆け寄る。

「誰だあの女子?」
「……っつか、今あの女子俺らの中なら黒子見つけたの……!?」
「えっ、あっマジだ!」
「な、何者なんだあの女子……」

と、ざわつく友人達に気付いているのか居ないのか、黒子はどうしたんですかこんなところで、とエリンギに首を傾げた。

「まだ制服ってことは、家に戻ってないんですか? こんな時間に」
「私、今日塾だったから。さっき終わって、本屋さんに寄り道したの」
「塾ですか……駄目ですよ遅いのに寄り道なんて。危ないです。なにかあったらどうするんですか」
「えー、大丈夫だよ」
「駄目です、危ないです」

苦言を呈して叱っているはずの黒子だが、まるで拗ねた幼子のようにぷくりとした。
それにエリンギはくすくすと笑って、ごめんなさい、と小さく言った。

なにあの空気、と部活仲間が惚けているのに目もくれずに、だ。

「黒子くんは部活帰りなんだね。こんなに遅いんだ。お疲れさま」
「ありがとうございます。君にそう言ってもらえると疲れも飛びます」
「うそ、もう。ちゃんとお家で休んでよ?」
「はい、それは勿論」

ひとしきり、二人でくすくすと微笑ましく話をして、ようやく黒子は部活仲間に振り向いた。

「それじゃ僕、エリンギさんを送って帰りますから。失礼します」
「火神くんバイバーイ」
「おー、じゃあな」

小さく話して笑いながら去っていく二人を見送る、もりもりと持ち帰りのバーガーを貪る火神に。

「お前知ってんのかよあの女子!」
「あ? クラスメートだし」
「誰だあれ!」
「エリンギ」
「そうでなくて! なんなの!」
「? なにって……黒子の彼女だろ」

なに言ってんだお前ら、とキョトンとして言う火神に、他の面々は唖然とした。

「あの黒子に、彼女……」

桐皇にいる、某美人マネージャーに靡かず、少しも動揺しないあの黒子が……と。
彼らのショックは暫く続きそうであった。


 



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