⇒ぷいぷい様
「……お前、顔色悪くない?」
放課後にデートに行こう、と言っていた日のことだった。
教室に迎えに来てくれた花巻の第一声が、それだったのである。
花巻は強豪と言われるうちの学校のバレー部のレギュラーでスタメンで。週一でオフはあるらしいけれど、その時間もなにかしらバレー部の為になる事に当てている。
だから、この日のデートは久しぶりで、私はとても楽しみにしていた、の、だけれど。
何故だか最近、私はよく眠れていなかった。
眠たくて眠たくて身体は怠くて仕方ないのに、寝付けなくて布団の中で寝返りをうっていると気付けば朝。
そんな事がここ数日続いていた。
なのでぶっちゃけ、出来ることなら今すぐ眠りたい。が、しかし、デートを楽しみにしていたのだって本音中の本音だ。
だから精一杯、ファンデーションやコンシーラーやチークで顔色の悪さをごまかしたつもりだったのだが。
「ひ、久しぶりだからちょっとファンデーション気合い入れすぎたかな……? あっ、あと日焼け止めも塗ったし……!」
「……エリンギ、隈出来てる」
塗りたくったファンデーションやらコンシーラーの上をさらりと花巻の親指が撫でた。やっぱり隠せてなかったらしい。
うっかり黙ってしまった私の態度で、私の体調が万全でない事に確信を持っただろう。難しい顔で溜め息をついて。
「送るから、今日は帰って休めよ」
「っそれはやだ!」
「疲れてんデショ。エリンギに無理させてまでデートする気はないよ俺は」
「無理してない!」
本当は、物凄くしてるけど。
じっと10秒くらい、お互い睨み合って。
先に逸らしたのは花巻で、また溜め息。
「……意地っ張り。んじゃ行くぞ」
それから花巻は私の手を取って歩いたけど、会話らしい会話がない。私は私で話題を提供出来るほど頭が回らなくて、花巻も黙りっぱなし。
疲れが蓄積されてぐらぐらした頭で、花巻がどこかでなにかを買ったのはわかったけれど。
気がついたら、私は何故かベッドを背にしてカーペットの上に座っていた。
……ここは、花巻の部屋だ。いつのまに……?
「はなまき……?」
「帰りは送るから。今日は寝ろ。そんなぐったりした顔ずっとしとかれんの、俺がヤだから」
ぴったりくっついて座る花巻の肩に頭を乗せられる。暖かい花巻の体温がシャツ越しに伝わってくる。
ぴったりくっつけた耳に、花巻の鼓動が響く。
「ごめん……」
「そう思うならおとなしく寝なさい。起きたらさっき買ったおやつ食うぞ」
「ふふ……」
ああ、さっき買ったのはシュークリームだったんだな、と頭の隅っこで思う。
ゆるゆると瞼が落ちてくる中、おやすみなめこ、と、やけに柔らかい花巻の声を聞いた。