⇒山部様

 


「黒尾ってさあ、目つき悪いし髪型変だし姿勢悪いしで私最初ヤンキーだとばかり思ってたわ。全然違った」
「ボロクソじゃねえか」
「全然違ったって言ったじゃん。ただのバレー男子だった」
「おう、まーな」

じゅるるるる、とパック牛乳の断末魔を鳴らしながら三年に上がったばかりを思い出す。
初めてクラスメートになった男子を間近にした時のあの恐怖と驚愕(しかも隣の席)。
なにか気に障ることがあったら理不尽に罵倒されたりすんのかとすら思った。被害妄想である。

「エリンギまだそんな悪あがきしてんのかよ」
「そういうとこはマジでムカつく」

ケラケラと笑いやがるがこちらとしては死活問題なのだ。

物心ついた時から、私は周りの友達より頭一つ小さかった。
まるで小動物のように可愛い可愛いと言われてきたが照れて見せたのも束の間、すぐに気に食わなくなった。

私の中では「ちっちゃくって可愛い」、は、「やーいドチビ」と同義だ。
ちっちゃくって可愛いなんて言うのなら変わって欲しい、切実に。

そう思いながら、ずっと牛乳を飲み好き嫌いをせず運動してぐっすり眠る生活をしている、のに!

「女子は別に小さくて損することねえだろ」
「小さいって言う事実が損。この前妹と歩いてたら私が妹だと思われたし」
「……ふっ……っ」
「ぷるぷる堪えるくらいなら笑えよ! ムカつくな!」
「アッハッハッハ」
「うざっ!」

妹は小さくねえのかよお前がガキっぽいんじゃねえのなんてなんの容赦もなく笑いながら吐かれるセリフに憤慨して黒尾を殴った。
人が気にしてることをズバズバと的確に……失礼過ぎるんですけど。

「あー、やべえすげー笑った」
「うるさいよ」
「そーかそーか、そんな悩みがあんのか」
「そうだよチビは悩んでんの。服のサイズだってSでも丈が余るんだから」

ジーンズは必ず裾を切って貰うし、マキシ丈のワンピは長すぎて着れやしない。小さすぎると満足にお洒落も楽しめない。こちとら花の女子高生だってのに。

ふてくされながら二本目の牛乳にストローを差していると、隣のクラスの海くんが黒尾を呼んだ。部活の話だろうか。彼も黒尾も同じ部活でしかも主将副将の間柄だと知らなかった頃は一緒に居るのを見て海くんが虐められているのではと勘ぐったのはいい思い出だ。黒尾には絶対言えないけど。

「まあエリンギ、元気出せよ」
「でっかいあんたに言われても」
「いいサイズじゃねえか。手が届きやすくて」
「は、うわっ」

ケラケラと笑って言いながら、ぐしゃぐしゃと私の頭を掻き回してから廊下に出て行った。

まったく、なんて腹立たしいからかいだ。
これだから、あいつはムカつくんだ。

そう思ってふと、手に持ったパック牛乳を見やる。

「……夜久くん」
「ん?」
「あげる。あっ、口付けてないから安心して」
「はぁ?」

いつもなら一気にでも飲み干してやったものだけど、なんとなくやめた。
別に深い理由なんて無い。ただ、まああまり躍起にならなくてもいいかな、と。

ただの気分、気紛れだ。


 



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