⇒ぴょんきち様
男子バレー部レギュラーが数人。
体育館そばの水道のあたりにたむろしていた時だった。
「お兄ちゃん」
場に似つかわしくない声に振り向く、と。
首から、「GUEST」のネームプレートを下げた、見慣れない制服の少女がそこにいて、じっとレギュラーの塊を見つめる。
一体誰だ、と数人が顔を見合わせると、ほとんど同時だった。
「なめこ。なんだお前どうしたの」
「部活、見学していいって言われたから。終わるまで見ていっていい?」
「あー、おう。ならギャラリー上がっていいぞ。監督には言っとくし、一緒帰っか」
(もとより強面でもないが)いつもより柔らかい表情で緩く笑った花巻が、そこには居て。
周囲がざわつき始めた頃、また別の一団が歩いてきて。
「あ、なめこじゃん」
「あっ、松川さん!」
「あ? なんだその女子。お前ら知り合いか?」
「俺の妹だよ岩泉」
「久々だな〜。なんで居んの? 花巻お前忘れもんとかしたわけ?」
「ばっか、忘れもんだったらわざわざなめこも制服で来ねーダロ」
ニヤニヤと笑う松川をべしんと叩いて、そんなんじゃねえよと鼻を鳴らした。それから、忘れたのかよ、と言ったとき。
「今日体験入学やってんスよ。ね?」
矢巾が出て来て、なんとなめこに笑いかけたではないか。
どういうことかと花巻さえ置き去りの状況にも関わらず、なめこはぺこりと頭を下げて。
「あ、あなたは……先程はありがとうございました」
「やー、まさか花巻さんの妹さんとは思わなかったッスけど……」
どこの体育館が男子バレー部かわからないって迷ってたのを見つけて場所教えてあげたんスよ、とへらり笑った矢巾に対し、花巻はジト目で。
「なに矢巾お前、ちょっと及川に似てきたんじゃねえの? 見習うのはバレーだけにしとけよ」
「なんですかソレ!」
「花巻、及川が来るとウゼーから先連れてけ」
「ああ、だな。なめこ、こっちこい」
「あ、はあい」
「んじゃまたななめこ」
「はい、松川さんも練習頑張って下さい!」
自分より幾分小さな妹の手を引いて体育館へ戻る花巻の後ろ姿を見送りながら。
「あいつナチュラルにシスコン入ってるから、まあ次から気をつけろよ」、なんて。松川はやはりニヤニヤしたまま、そう言って矢巾の肩を叩いたのだった。