⇒真琴様
エリンギはしばしば、単なる気紛れが面倒な事態を引き起こしてしまうことがあった。
そもそもの出会いの発端からしてそうであったし、そしてまた、今日も。
それは単なる気紛れで、誠凛の終業が早かったから、写真を撮りに近くまで出向いたから。満足するまで写真を撮ったらたまたま丁度よい時間だったから。
だから、なんとなく、桐皇学園の門の前で立ち尽くしてみたりした、わけだった。
「……えっ」
「なによその顔」
「えっ、エリンギ、えっ、本物?」
「私の偽物でも見たことあるの?」
「ないけど。……えっ?」
すっかり切れ長の目を盛大にかっぴらいてぱちぱちと何度も瞬きを繰り返したり首をあちらへこちらへ傾げる仕草に段々とエリンギの目も据わってくる。
それに気付いたか否か、ようやく青峰はなんで、と別の言葉を吐いた。
「学校の後に写真撮りに近くに来たからなんとなく」
「エリンギがなんとなく俺に会いに……? マジで言ってんのお前……!?」
「……なに、桃井に会いに来たって言えば満足なわけ?」
普段からうるさいうざいいい加減にしろアルティメットバカ、と盛大に詰られる事に慣れすぎている為にか、青峰はエリンギの気紛れなデレについて行けてなかった。
わたわたと慌てているのか焦っているのか、挙動不審になる青峰にエリンギは来るんじゃなかったと後悔していた。
恐らく学内の有名人だろう(そうでなくとも目立つ)青峰を挙動不審にさせているのを誰かに見られたら自分が預かり知らぬところでどんな根も葉も無い噂を立てられることであろうか(内容によっては根も葉もある噂になるかもしれないが)。
「青峰」
「おっ、おう」
「私、早く帰りたいんだけど」
短くはない付き合いの中で多分一番見てきただろう、不機嫌そうな表情にハッとして、ようやく挙動不審を止めてエリンギの隣に並んだ。
なぜ校門前で合流したのに学校を離れるまでにこんなに時間と精神力を浪費せねばならないのかと自問してみたが。
「なあエリンギ」
「なに」
「まだ明るいしよ、マジバ寄って帰ろうぜ」
「あんたの奢りならいいわよ」
「んじゃあ決まりだな」
チラリと見上げた、一般的には強面と称されそうなその顔が妙に緩んでいたのを見て、まあ今回だけは許してやるかと小さく溜め息をつくのだった。