⇒由衣様
皆さん、初めまして。私はエリンギなめこの数少ない友人の一人(だと自負している)です。
え? 名前? あー、モブ田モブ代(仮)とかでいいです、はい。
私よりもその友人であるエリンギの事を今日はお話に来たわけです。
最近の彼女は、前にもまして。
「はあ……」
顔色が悪くて溜め息が多くなっている。
元々貧血気味なのかどうか知らないけれど、多分普通より色白だったが、最近はなんというか、蒼い。あと眉間のシワが増えてきた。
「エリンギ、最近どした?」
「……なんでもない」
どう考えたってこのなんでもないはなんでも無くないけど、ものぐさな彼女の事だ、疲れているから話すことすらめんどくさいんだなと理解。
ふうんととりあえず返事をしておいたが、心当たりが無いわけではない。
というか、ぶっちゃけこれが原因だろうなというのは察している。
と、言うのは。
「エリンギ」
「……なに」
「今日の昼も付き合って貰うよ。構わないよね?」
「……どーせ断ったって追いかけてくるでしょ」
「じゃ、楽しみにしてる」
そう、こいつ。学年……いや、学校内で一番の有名人じゃないかと思われる、赤司征十郎が殆ど毎日来るのだ。
最初は盛大に抵抗していたエリンギだったが、やっぱりこうして諦めている。お前口と態度は悪いけど基本的に優しいもんね、知ってる。
昼休みに、じゃあ行ってくる、と弁当を持って立ち上がったエリンギを急かすように、廊下にはやっぱり赤司征十郎。
好奇心……じゃねーや、興味本位……違うな、えーと、エリンギが心配になった私は! そうだこれで行こう。エリンギが心配になった私は、こっそりとついて行った。
着いた先は……男子バスケ部の部室。何故だ。エリンギは基本、自分の城と称する、あの狭くて埃っぽい資料室が大好きなはずなのに。
いったいこんな所でなにをするつもりかと窓からこっそり覗き込むと。
「緑間とやればいいじゃないの……」
「勿論真太郎とは毎日やっているよ。でもなめことやるのも楽しいんだ」
「私はめんどくさい」
「でもなめこもボードゲームは好きだろ? 今日は将棋じゃない方がいい?」
「いいわよ将棋で。もう並べてるし。さっさと終わらせるわよ」
「うん!」
だっ……誰だあれはーーーっ!?
表情禁が有り得ないくらい動いている赤司征十郎。喋り方が物凄くガキくさ……えーと、あざとい赤司征十郎。全身から喜びを表現している赤司征十郎。
な、なにあれ。
もしかして私今、触れちゃいけないものを目にした?
あ、そうだ教室戻ろう。
「……ああ、見てしまったんですね」
「っ!? だっ、誰……っどこ!?」
「……逆です、逆隣です」
「あっ、うおわっ!?」
妙に至近距離にいた色素も存在感も薄すぎる男子が、仕切り直しのように小さくこほんと咳払いをして。
ふ、と小さく微笑んだ。
「誰にも言っちゃ、駄目ですよ?」
まあ信じないと思いますけど。
学年もクラスも名前も知らない男子は、そう、人の良さそうな顔で微笑んで、男子バスケ部の部室に入っていった(部員なのかよ)。
ちらりと窓の中を見たら、やっぱり疲労感が倍増しているエリンギと、やっぱり幼く見える赤司征十郎と、やけに愉快そうなさっきの謎の少年が居て。
更に更に、無駄に目立つ男子バスケ部レギュラー軍団までも近付いてきたので私はそそくさと教室に戻った。
「……エリンギ」
「なに?」
「これあげる」
「……? ありがと」
翌日、私は朝一番に彼女が好きな焙じ茶をプレゼントした。
そして以後二度と、彼女の後をつけたり、あのレギュラー軍団が側にいるときに近付かないと心に決めたのだった。