step4‐カラオケ続行
室内がおおいに盛り上がっていた頃、ドリンクのおかわりと共に一つの鉄板が。
「……なあ、たこ焼き頼んだの、誰?」
嫌な予感と共に恐る恐る高尾が振り向くと。
「はあーい! 私が頼んだーっ! ロシアンたこ焼き!」
「やっぱりな!!!」
勢い良く手を上げたのは、予想を裏切らないエリンギで、たこ焼きも予想を裏切らないものだった。
「一人一個選んで食べよ! 怖い人はジュース片手にね!」
なんて言うエリンギの声に、甘党の緑間と河村が自分のグラスを握り締めた。
確かタバスコたこ焼きだったはずだから、俺はハズれても別にいいかなあなんて軽い気持ちで最後の一つを箸でつまんだ。
「それじゃ、いただきまーす!」
エリンギの掛け声に全員が一斉に食べ始める。
「ん、おいし〜!」
「うまいのだよ」
「よかったあ、普通のだ!」
「ふう……俺も違うな」
「んん……!」
後輩がギュッと眉を潜めたかと思ったら、違います違いますと首を横に振って。
「私紅ショウガが苦手で……! かまないように頑張ってたんですが」
「なあんだ、そうだったの。あれ、じゃあ……」
「…………っ!?」
瞬間、ガツンと鼻孔を抜けていく刺激に高尾は思わず口から鼻から吹き出しそうになり、慌てて手で塞ぐ。
それからグラスに手を伸ばしてグイッと一気に煽って、たこ焼きも胃の奥へと押し込んだ。
「高尾かーっ! ある意味狙い通り!」
「あれ、でもタバスコたこ焼きだよね? 高尾、お前辛党じゃなかったっけ?」
「っ……、ぐ、こ、これタバスコじゃねえんですよ! なめこてめっ、わさび……!」
「そうでーす。店員さんにわさびに変えて貰えますかって言ったら快く了承してくれました!」
だってタバスコじゃあ高尾平気だから不公平でしょ、なんてニマニマ笑いながらのたまう。
ずび、と予想外の刺激に漏れそうになる鼻をすすると、あっ、と隣から声が上がった。
「高尾先輩」
「な、なあに……」
「高尾先輩が飲んだの、私のジュースです」
「えっ」
高尾が飲み干して空になったオレンジジュースのグラスと、まだ氷もしっかり残るオレンジジュースのグラス。
そう言えば、高尾はたこ焼きと一緒におかわりしたこのジュースを受け取ったわけで。
「ごっ……! ごめん! ごめんね!?」
「あ、いえ、先輩が構わないのでしたらいいんですが……」
「こっちまだ飲んでないから飲んじゃって!」
わさびなんかよりも予想外の展開に顔に熱が集まってくる。くそ、なめこにやにやすんな。
あー、カラオケ室内、薄暗くてよかった。