step3‐カラオケ
言い出しっぺなのだろうエリンギが、テキパキと受付作業を進め。
3階306号室にどうぞー、と店員のにこやかな声に見送られながら階段を上がる。
6人(うち二人は規格外の体格)が入っても中々広い部屋で、各々のテンションもそれなりに上がってきた。
「一番誰行くーっ?」
マイク二人を握り締めたエリンギがモニターに背を向けてニイッと笑って。
「ハイハーイ! 俺いっきまーす!」
「はいよーっ」
ピピピピッとリモコン操作をした高尾に一本投げ渡す。勿論高尾は難なく受け取って、送信した曲も掛かり始めた。
部屋の隅に置いてあったタンバリンを後輩が鳴らし始め、室内の空気は一曲目からフルスロットルである。
「ね、ね、緑間くん」
「ん? どうかしたか?」
「緑間くんって、カラオケとか来るんだね」
「ん……まあ、たまにはな。高尾に引きずられたりなんかして来たりするのだよ」
本当は高尾とエリンギと三人でアニメ映像を目的によく来るなんて言えたものではない。会員カードもばっちり持っているなんてとても言えない。
そんな葛藤も知らず、山田は。
「私、てっきり苦手かと思ってたよ。また今度、私も誘っていい?」
なんてはにかみながら言うもので、緑間は不自然に小刻みに首を振りながら「あっ……あああ、ああ、構わないのだよ」と応える。
あからさまに気持ち悪いが、山田も緑間の奇行にはすっかり慣れているらしい。
その点には触れることなく、ふふ、と嬉しそうに小さく笑っただけだった。
「(山田ちゃんHSだな……)」
リモコンで曲を予約しながら、エリンギがぼんやりとそれを眺めていた。