⇒鏡魅様

 


「ねえねえエリンギくん、ガチチョコ貰ったってほんと?」
「……誰に聞いた」
「テッちゃんが見てたって!」
「あのアマ……」
「お口悪いよエリンギくん」

きゃらきゃらと笑う桃井に対して、エリンギは躊躇い無く溜め息を吐き出した。
心底面倒くさい。

エリンギに非常に懐いている桃井は、何故か第三者からエリンギに対しての好意が見えると異常にハイになる傾向にあった。
そして今日は2月14日。好意の証にチョコレート菓子をバラまくイベントに便乗して明らかにされたそれに、やはり桃井はハイになっていた。

絡まれると面倒だから黙ってたのに……。

胡乱気に、エリンギはじろりと桃井を見た。
正確には、椅子に横向に座って此方を向いている桃井の、向こう側に見える、彼の机を見た。

「つーか嫌みか?」
「なにが?」
「お前の机に山のようにおいてあるガチチョコだよ」
「? マネージャーやってるからじゃない?」
「お前それ素?」
「え?」
「あ、もういいわ」

意図的にしろ天然にしろ相手が気の毒であることはよくわかった。

ちらほらと見える自己主張の強い色のラッピングは、多分、それぞれのラッピングの色と同じ名前を冠するやつらからのもの。
せいぜいあの当たりだけだなはっきり報われるの、とどうでもいい同情を起こしていると、ねえねえねえねえと酔っ払いよろしく桃井が絡んでくる。

「告白されたの? されたの?」
「……だったら?」
「キャーッ、イケメン! 彼女出来た!?」
「全然」
「なんで? チョコ貰ってきたんでしょ?」
「頑張って作ったので捨ててもいいので受け取って下さいって言われたから貰ってきた」
「手作り! 愛籠もってるなあ、捨てたの?」
「なんでだよ捨ててねえよバッグに入ってるわ」
「あっほんとだみっけ」
「漁んなよ!」

どこまでもフリーダムな桃井にぐったりしたエリンギの手に話題のチョコ(箱)が渡される。

開けてみてよ、と笑顔で言い放った。もう嫌だこいつ。

「なんでだよやだよふざけんないい加減にしろよ今日はただでさえ気分わりーんだよ」
「そこら中チョコの匂いだもんね」
「特にお前の机からな」
「でも家で食べてあげるんでしょ?」
「るせーよ人としての礼儀だろ」
「エリンギくんマジイケメン」
「嫌みか死ね」
「褒めたのになんで」

はああ、とまた盛大な溜め息をついて、箱をバッグに突っ込んだ。

 開けたら割れてたハート型!

その夜、珍しくエリンギから桃井にメールが入った。
「俺なりに細心の注意を払って持って帰ったし、そもそも箱だからまずは箱から変形するはずでそんなものは無かったんだが、これはつまり元々こうだったのか俺の手に渡る前になにかしらあったのかどっちだと思う?」という本文と。
その下に添付されていたのは、開かれた例のチョコレートの箱と、そこに行儀よく収まったチョコレート。

それは、見事に真ん中からパックリ割れていて、流石の桃井もどう返信するか悩んで。

「相手の女の子の気持ちが如実に現れたチョコだね……」

とだけ、返信した。


 



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