⇒深紅様
そうっと、一粒ずつ、指先でつまんで口に運んでいく。
それから咀嚼して嚥下して、またつまんで。
その繰り返し作業のような行動を、正面でじっと見つめられているのは、いくら同性相手でも居たたまれない、というか、相手が相手だけにむず痒いものだった。
「……あの、エリンギ? なんなのいったい」
「……えっ?」
「えっ、じゃないよ! さっきからずーっと俺のこと見てさあ、まあ見とれちゃうくらい及川さんがイケメンなのは知ってるけど」
「ははっうっぜ」
「なにそれ傷付いた」
また一つ、チョコレートを口に入れると同時に、エリンギがゆるりと笑って。
「さっきからチョコレートぱくぱく食べてさ」
「? うん」
「そのイケメンなお顔にどんだけニキビ出来ちゃうのかなって考えてた」
「ちょっとなにそれ酷い! やめてよ!」
ぱっと顔を覆って、女子よろしく悲鳴をあげた及川に、にっこり笑って。
先ほどまでチョコレートを摘んでいた方の及川の手を取り、うそ、と囁くように言った。
チョコのついた指を舐める
見せつけられるような緩慢な動きでぱくりとくわえられ、敏感な指先を遠慮無く撫でていく舌の感触にぞわりと背筋に電流が走ったような気分になる。
「ちょっ……エリンギ、はなして」
「酷いのはどっちだよ及川」
「……は?」
「俺楽しみにしてたのに」
なに、と聞き返したところで人差し指が解放されて、次の標的は親指になった。
「お前、俺にチョコくれるっつったの忘れてるだろ」
「そのまま喋んないで……ってか、エリンギ甘いの嫌いじゃん!」
「でも期待してた」
「う……ご、ごめん」
ようやく親指まで解放されて、まあいいよ、許しても、とエリンギはぺろりと舌なめずりをした。
「ごちそうさま」
「……ら、来年はちゃんと用意します……」
「うん」
にんまり笑ったエリンギを見て、彼相手に軽はずみな発言をするのは止めようと及川は心に誓った。