⇒haruka様
後ろめたい事でもあったか、と言われたらそんな事はないはずである。
ただ単純に面と向かって渡すのは恥ずかしかったのだ。
だから、ちょっとリボンが曲がったりするのも気にしないで、その他大勢の女の子達のものの中に紛れさせた。
どうせ気付かれやしない、と思って。
そんな私の超乙女な葛藤が、ただ浅はかすぎただけだと判明したのは放課後の事だった。
いろんな店のバレンタインのチョコレートフェアは今日が最終日だ。それはもちろん、お気に入りのカフェもだから、私は帰って着替えてお茶に行きたかった。のに。
「エリンギー、なんか赤司がお前のこと呼んでる」
これだ。
教室の出入り口に視線をやれば、早く来い殺すぞと言われているような気がする。オーラが。
女の子達に羨ましいなんて言われながらとぼとぼと向かうと遅い、と囁かれた。怖い。
要件なんてわからないまま歩き出した彼についていったら、もう殆ど誰もいなくなった彼のクラスに辿り着いて。
そう言えば人の波に逆らって歩いてきたなあなんて思っていたら、座れ、と言って彼は自席についた。どこに座ればいいの、床か? 正座コースか? なんて考えてその場で膝を折ったら馬鹿か適当な椅子を引っ張り出して座れと心底呆れた顔で言われた。すいませんね馬鹿で。
「これ、もちろん見覚えあるよね」
おもむろに机の上に取り出されたのは、私が今朝この机に置き去りにしたチョコレートの箱だ。
嘘だろ。何でばれたの。
「なんでかわからないけど、俺にチョコレートくれるのに手作りして来る子って少ないからね」
ああ、そうかそうですねだって赤司舌肥えてそうだもん普通にマジバだって行っちゃうただの男子中学生なのにね!
「直接渡してくれたらこんなこともしなかったんだけど、馬鹿だな」
そう言って赤司は、いやに爽やかすぎる笑顔で。
食べさせて?
誰もいないからってそんなくそ恥ずかしい事が出来るかと首を横にふったら、爽やかな笑顔のままさっきの早くしろ殺すぞ的なオーラがまた立ち上ってきた。
チョコレート置き去りにしただけでそんなに拗ねんなよと死んでも口に出せない本音を飲み込んで、二度と同じ轍は踏まないと誓った。