⇒あみ様

 


自宅学習期間になって二週間。
ノートを開いたり参考書を開いたり問題集を開いたりと右手も左手も忙しなく動かしながら机にかじり付く毎日に、(残り一月もない肩書きとは言え)まあまあ男子高校生らしい下心を抱いて学校の図書室に俺は居た。

期待しているのか、ああその通りだなと自問自答しながら過ごす一日では、どうにも勉強に身が入るわけはなく。
我ながらだっせぇ、と心の中でボヤいてカラン、とシャーペンを机に放り投げた。

ら。

「みゃーじさん」
「……エリンギ」
「えっへへ。みっけ」

気の抜けるような声と共に顔を見せた後輩女子。
まるではかったかと思いさえするようなタイミングにげんなりした。
机だけ2、3人分のスペースを使っているのなんて気にせずに、左側隣の椅子を引いて座った。

手には、小さな紙袋。

「高尾をせっついてせっついてやっと見つけましたよ! 今日学校に居てくれてよかったです」
「ふーん……。で、受験勉強に忙しい先輩様に何の用だ」
「やだーっ宮地先輩ったら! わかってる癖にこのいけずっ! 乙女に言わすんですかっ?」

むしろお前が言わなくてどうすんだよ俺から言ったら自惚れ甚だしいだろ、とは言わなかった。顔には出てたかも知れないが。

彼女は、先程名前が上がった、部活の後輩である高尾を通じて出会った女子だった。類は友を呼ぶというのか、これがまたあいつと同じでお調子者くさくてきゃらきゃら笑い、二転三転と変わる表情は忙しない。

いつの頃からか忘れたが、何故か懐かれて毎日のようにストレート過ぎるアピールをされるようになって数ヶ月。
押して駄目なら引いて見ろなんて言ったのは誰だろう。効果絶大だ。騒がしいと思っていたのに、全く会わなくなったこの二週間はずっと頭にこいつが居座っていたなんて信じたくない。

「これっ、バレンタインのチョコレートです! ばっちし純度100%の本命ですっ」
「はいはいありがとよ」
「軽い……軽すぎです先輩……」

酷いよーなんて泣き真似をするエリンギに、変わってないなと思ったが、二週間そこらで変わられてもなと思い直した。
おかげで俺もこんな日ですら"先輩"のスタンスを崩せない。

「お前変なもん入れてねーだろな」
「入れましたよ」
「おいなに入れた」
「うふふっ」

 隠し味は気持ちです。

わざわざ胸元でハートマークなんざ作って、ほんの少し首を傾げてにっこり、悪戯っぽく笑った。

なんなの、こいつ。

「え、宮地先輩? 反応無しですか?」
「……っとにさぁ、生意気なんだよ今年の一年はどいつもこいつも」
「高尾と一緒にしないでください!」
「うるせーよ同類だ馬鹿。なにかわいこぶりっこしてんだよ」

貰ったチョコレートを机に置いて、わざわざ両手でエリンギの両頬をぐにっとつねった。

「らってひぇんはひあらといのひゅひへほ?」
「わかんねーよなに言ってんのか」
「だって先輩あざとい方が好きでしょ? ドルオタですもんね!」
「おい誰に聞いた」
「高尾が言ってました」

ギャップですね、そんなとこも可愛いです、なんて言った馬鹿を抱き寄せた。
途端にわたわた慌て初めて、みるみるうちに耳まで赤くなっていくのを気分よく眺めながら、悪くねーなと呟いた。

とりあえず、高尾は帰りシバく。


 



「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -