⇒睫毛様

 


あちらこちらからチョコレートの匂いがする。
本命だとか義理だとか友達だとか、数日前から騒いでいたのをぼんやり思い出して。一年中色んな行事に踊らされて女子って大変だなあなんて思いながら塩キャラメルを口の中に転がした。

「バレンタインになっても国見が食べてんの変わんないんだね」
「あー? だってこんな行事無縁だし。及川さんじゃあるまいしな」
「あは、モテるもんねあの先輩」

エリンギが隣の自分の席に座り、バッグを漁りながらカラカラと笑う。
それからいつもお菓子を持ち歩いている小さな巾着を取り出したので。
いつものように塩キャラメルを一つ彼女の机に置いて、ん、と手を出した。

「今日国見なんの気分〜?」
「なんでもいいけどこないだみたいなめっちゃ酸っぱい飴とかは許さない」
「はあい了解でーす」

こいつ変な変わり種みたいなのばっかりしょっちゅう持ってんだよなあ中には当たりもあったりするんだけど、と思いながら待っていると。
じゃあせっかくだし、今日はこれね、ところんと3つ手の上に置かれたチロルチョコ。
置くときにほんの少し触れたエリンギの指先は、凍ったみたいに冷たかった。

 精一杯のチロルチョコ

離れていきそうな手をチロルチョコごと握り締めた。
そしたら面白いくらいにびくりと肩を跳ねさせたエリンギに笑って、来年はちゃんと作れよって言ったら途端に真っ赤になるからさらに笑って。

「とりあえず、マシュマロとクッキーとキャンディとどれがいい?」
「……なんか意味あったよね」
「あったな。忘れたけど」
「えー……じゃあ私マシュマロが好き」
「出来るだけ覚えとく」

なにそれ、ちゃんと覚えといてよ! と憤慨したエリンギの声を聞きながらチョコの包みを剥がした。


 



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