⇒ねろ様

 


やっぱりこんな時くらい手作りしたいよねー。うんうん、だって他の人にも配るし、ていうか作れって言われた。なに作るのー? んーとねー……。

ぼとり。

手に持っていた箱を落としてしまった。

近くできゃらきゃらと会話する女の子達の話の内容にグサリと心が抉られる。
そうか、そうだね、やっぱり今時なんて言っても本命くらいは手作りの方がいいものかな。
さり気なくフラフラと色々見るふりをして、手作りコーナーに向かった。刻むように10gずつのブロックにされて袋詰めされたチョコレートを手に取る。裏返せば、ガナッシュの作り方が書いてあったけれど、私の料理スキルではそれも怪しい。
一年前にチョコレートを焦がした記憶は薄れていないのだ。

小さく息を吐いて、自分の持った籠の中身をちら見してうなだれた。しかし、それをどうするわけでもなく、おとなしくレジの行列に並んだ。

「……貴大もさあ、やっぱ手作りがよかったりする?」
「はい?」

そんな小さな、個人的には一大事とすら言える葛藤のあった数日後。
私のお買い上げしたチョコレートは、目の前で無事に目的の人の胃袋へと着々と納められつつあった。

私が吐いた言葉とチョコレートを一緒くたに噛み砕くようにんー、と少し首を傾げながらもぎゅもぎゅと咀嚼して、ごくん。

作ってくれんの、と言う言葉には悔しいながら首を横に振った。
付き合う前のことだから、彼は私の一年前の失敗談を知らない。話したくもないけど。

「残念ながら今は作ってはあげられないね。その市販のおいしくて綺麗なチョコで我慢して下さい」
「うん。いいケド。なめこ、どしたの?」

さっきとは逆方向にこてんと首を傾げて見せた花巻に、売り場で聞いた会話やらそれからの私の葛藤やらを話して聞かせたら、途中で無遠慮にぶはっと吹き出した。このやろう。

「そんなこと気にしてたの。かわいいとこあんのな」
「私結構真剣に悩んだんだけど」
「知ってる」

かわいい、とまた言って、やわく笑った。

 手作りだけが愛じゃない

チョコレートをまた一粒口に入れて、あのさ、と言い始めた花巻に視線で続きを促す。

「こんな言い方もないかもしんないけど、手作りと市販のものに差ってないよ」
「うそ、そんなことないよ、差はあるよ」
「ないよ。だってそれだと、チョコレートがメインみたいじゃん」
「……?」
「そーじゃないデショ」

わかんないの、とカラカラとおかしそうに笑った。
なにがそんなにおかしいの。

「このチョコレートは、ただの媒体」
「媒体?」
「なめこが俺にくれた気持ちを、とりあえず目に見える形に表してくれただけのものデショ」

まあそうなると気持ちの大小による差はあるかもしんないけどそれは今は置いといてね。

ごくんと飲み込んで、空っぽになった口を開く。

「手間暇かける手作りも、沢山悩んで買ってくれたチョコも、貰う方は優劣つけたりしませんよってコト」
「……わかった、ありがと、もうやめて恥ずかしいから」

顔を抑えてうなだれたら、またそれに彼はかわいいと言ってにんまり笑った。


 



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