⇒あおの様
「あれ」
本日は2月14日。そう、言わずと知れたバレンタインデー。
日本での主流は女性から男性へ贈るチョコレート。
そこに各企業の思惑や陰謀入り混じり、まあまあそれだけではなく、逆に男性から女性へ(海外ではこちらの方が主流っぽい)、友人同士で、固定のコミュニティー内でのバラまきチョコなんてものもある。
贈り物はチョコレート菓子だけに止まらず、沢山の雑貨類が特設の売り場に並んでいたりするこの季節。
登校した私の机のド真ん中を陣取る、可愛らしいラッピングが施された箱。
これは恐らく、まさしくそう言うやつではないだろうか。
「なめこったら朝っぱらからやるじゃん！ 誰に貰ったのそれ！」
「え……わかんない。なんか私より先に来てた」
「差出人書いてないの？」
「……書いてない」
くるくると箱を回してみたが、それらしき文字列は見つからないし、箱と机の間にも無かった。
誰か友達のイタズラかと思ったけど、こんな綺麗なラッピングまでして貰うほど手の込んだ事もしないだろう。だいたい友達からは友チョコを既に受け取り済みだし。うーん、思い当たる節もないなあ、とガサゴソ開ければチョコレートの匂い。
やけに色の濃いチョコレートを一粒、口に放り込んだ。
瞬間広がる、あるまじき苦みに私は朝から悶絶した。
差出人は誰だ！
「花宮ァ！！！」
一限終了直後に隣のクラスに駆け込んだ。
教室にいた全員が此方を振り向いたが、呼ばれた張本人はゆるりと振り向いて、人の良さそうな笑みを浮かべて。
「おはようエリンギさん。どうかした？」
などとのたまった。
こっ、このやろう……！
とりあえず来い、来いと連れ出して廊下の端に連れて行く。
ニコニコとした人の良さそうな笑みは、もうすっかりニヤニヤとした質の悪い笑みに変わっていた。
「なんだよ、次移動教室だから早くしろ」
「机の上にあったチョコ！ あんたでしょ！」
「知らねえよ」
「カカオ100％チョコなんかあんたしか考えないわよ……！！」
「そんなもんわざわざお前の為に買うワケねえだろ。97％だバァカ」
「十分だよ馬鹿！！！」
しれっとした顔で中々に腹立たしい事を言う花宮に、憤慨すると、くつくつと喉の奥で笑う。
そして響いた予鈴にくるりと踵を返して。
「来月忘れんじゃねーぞ」
と。
やけに愉快そうに言い残していった。