⇒由衣様
青峰大輝とは、なかなかに素直になれないところがあった。
それは青峰と幼馴染みである桃井もずっとそう思っていたし、同じバスケ部のチームメイト達もそう思っていた。
それについては、相手が察してやって大人になればまあまあ何事もなく丸く収まる訳なのだけど、やはり相手にも相手の都合があり、そういうわけにもいかない時があるのだ。
そう、例えば。
「ハァァ!? なにそれ! しんっじらんない青峰のバカ! そんなに言うならもう桜井と付き合えばいーじゃんもう知らないし話しかけないでよね!!」
相手が付き合っている彼女であり、事がバレンタインのチョコレートである、とか。
あーあ勿体ねー。もっと大事にしろよ。
正直青峰が彼女を怒らせたのはこれが初めてではないが、流石に今回はまずいと思い、幼馴染みにメールで相談してみたところ、電話口でも実際に会っても怒鳴りつけられた挙げ句、中学の頃のチームメイト達に満遍なくリークされてしまい。
「最低です猛省して陳謝してください」だの「あんまりッスよかわいそすぎッス」だの「人事を尽くさんお前が悪いのだよ」だの「流石にデリカシーが無さ過ぎるんじゃないのか」だの「峰ちん馬鹿じゃねえの?」だの、好き勝手言い放題なメールが届く事となった。
が、事実悪いのは青峰であるので何とも言えないのが痛いところであった。
が、好き放題言うメールはとりあえず削除して、屋上に走った。
「……おい、なめこ」
「……」
「シカトすんな、おい」
「…………なによ」
ペントハウスの上でしゃがみ込んでいるなめこの前に回り込んで同じ様にしゃがむ。
手元には例のチョコレートを抱き締めていて、ずびっと鼻を啜った。
「……悪かったよ。別に良にチョコ貰いたくねーし。機嫌直せよ」
「……ほんとだろーな」
「当たり前だろーが。野郎にチョコ貰っても嬉しくねえよ」
目を赤くして、ずずっとまた鼻を啜って寒い、と呟いて睨んできたなめこに笑って。
「今2月だぞ当然だろ。俺の台詞だっつの、このブス」
「うるっさいし誰の所為よこのガングロ」
チョコレートの箱を受け取って、彼女の手を引いて屋上を後にした。