⇒相楽様
クラスの女子たちがいつもみたいに集まって、いわゆるガールズトークなんかをしていた。
そうしたら、薄い本を広げていたエリンギは周囲の女子の恰好の餌食になってしまい。
「きゃーっ、あんたとうとうやるの!?」
「こんな時でもないとタイミング掴めないよねー頑張んなよ!」
「なめこ料理上手だからバッチリだよね〜」
なんて賑やかな声が上がって、慌てたように止めてよ、とそれを制するエリンギの声がした。
ちらりとさり気なくそちらに目をやると、彼女が手にしていた薄い本にはチョコレートで作る簡単スイーツ、とやけに可愛らしいフォントで綴られていた。
あの子のチョコは誰のもの?
2月14日。こんな日に限ってこんなことってあるのかと言いたくなるくらいに外は吹雪いていた。
とは言え、外出が困難とは言わないレベル。ただ、億劫にはなる。なれているのとだから構わないというのは違う。
及川はまた馬鹿みたいな量のチョコをこの雪の中持って帰るのか、と思うと笑いが漏れた。それでも、貰った物は全部しっかり自分で持って、傘をさしても自分よりもそっちのチョコレート達を守るようにさすんだろうと去年の事を思い返せば、あいつがモテる理由も顔だけじゃないなと思ったりする。
エリンギも、やっぱ渡すならあっちかなあなんて思いながらザクザクと雪を踏んで歩く。
学校について、傘の上にたまった雪を振り落とすと、花巻くん、と呼ばれて振り向いた。
「エリンギ」
「お、おはよう」
「はよ。……早くね?」
はにかみながら頷いて、花巻くんもね、と言われた。引退はしたけれど、部活の癖が抜けないのだから仕方がない。
「花巻くんて、お昼によくシュークリーム食べてたよね?」
「んー、うん。好きだからね。急にどした?」
平静を装いながら、そう言って笑った。
耳の奥で自分の鼓動がやけに響いて聞こえる。
「え……と。あの、よかったら、貰ってクダサイ」
「……ん。さんきゅ」
受け取った可愛らしいラッピングの中には、一口サイズのシュークリームがいくつか転がっていた。
エリンギがちらりとこちらを見上げた瞬間に真っ赤になるなんて、一体俺はどんな顔して受け取ったんだろう。