⇒紫月様
こんな事があっていいと思っているのか。
見るも無惨に焦げたマフィンを前に、私は脳内でそんな言葉を反芻していた。
いつものように、今年もチョコあげるね、と言ったら、チョコよりもっと食い応えのあるやつがいいなんてわがままを言うので、頑張った、キャラメルマフィン(チョコチップ入り)。
の、結果がこれだ。
どうしよう、どうしよう。
ちらりと時計を見た。やつが来るまでまだ少し時間はある。
換気扇を強で回し、焦げたキャラメルマフィンにはキッチンペーパーを被せた。これは悲しいけれど私のおやつにしよう。
自転車で10分くらいのところにあるコンビニくらいしか行けないけど、いくつか彼の好きそうなお菓子を買って、元々マフィンを包むはずだったラッピングに突っ込んだ。うん、中々悪くないよね。
だいぶ室内の焦げ臭さも緩和されたかなと思って、それでもまだ不安が拭えないのでとりあえず換気扇を弱に切り替えて彼を待った。
ほどなく、チャイムが鳴って出迎えれば彼で、第一声は寒いだった。少し赤くなった鼻をすんすん言わせてソファーに丸まったので、換気扇を止めて暖房を少し強くしてあげた。
はいこれ、と例のお菓子の詰め合わせを差し出すと、なぜか彼はそれを一瞥した後、受け取らずにずんずんキッチンの方へ歩いてしまった。
そしてぺろりと、薄っぺらすぎるカムフラージュをめくってしまったのだ。
こ、これは、失敗作!
「……ふーん。ま、やっぱな」
「あああああきちゃんなにしてんの……!」
「あ、中は普通じゃん」
満遍なく焦げたマフィンの一つを手にとって、二つに割った。それをまたもう半分にして、無事だった中心部にかぶりついた。
「身体に悪いよそんなの!」
「なんで? 焦げたとこは食ってねえし、フツーにうまいけど」
「首傾げても駄目!」
「やだよ。だってこれ俺んだもん」
ぺろ、と口の端についたチョコを舐めとって。
なめこ、キャラメル嫌いじゃんとしたり顔で笑った。