9月某日、晴れ
ぽかりと穴が空いたように拓けた一帯。その真ん中にぽつんとある半球体。
それは幼い頃、三人が大人に内緒で抜け出して一夜を過ごした天文台である。
「……変わんねえな、ここも」
「だね」
「まあなんにもしてないわけだから、逆に変わってたら怖いけどね」
黒尾と研磨の台詞にけたけた笑いながらローブを脱いで、ベルトの後ろに差していた杖を出してルーモス、と唱える。
杖の先に宿った光を頼りに燭台を探し、火を灯す。
ふわりと明るくなった室内の、真ん中にあるソファにローブを放った。
奥には簡易キッチンと戸棚があって、壁に沿って上へ伸びる階段を上がればメイン設備である天体望遠鏡と子午環がある。
何分魔法を基にしているため、マグルのそれとは少し勝手が違うけれど。
ただ子供三人ならば二階でも十分雑魚寝できる広さがあり、元々連日観測出来るように作られたこの場所は、三人にとって快適な秘密基地そのものだったのだ。
「……うん、懐かしいな」
「だなあ。親父に貰った吠えメール思い出すぜ」
ぼすんとなめこのローブの隣に腰を下ろした黒尾と、それに続いて研磨はソファの肘掛に小さく腰を預ける。
あの赤い封筒を受け取ったのは、もう10年は前になるのか。
今となっては笑い話、感慨深いもんだと思う間もなく研磨が素直に表情を歪めた。
「……俺は思い出したくない」
それになめこがまたけたけたと笑って、三人の脳裏に当時の思い出が浮かぶ。
「研磨ギャン泣きだったもんね」
「なめこはテーブル投げつけようとしてたけどな」
「吠えメールに追いかけ回されてたから投げてたら危うくクロに当たってたよね」
「ほんとだよこえー女だなお前」
研磨の冷静な懐古分析に、黒尾がやだあと態とらしい声色で呟きながら胸の前で腕を交差させて自分の肩を抱く。
「研磨が私の陰に隠れてギャン泣きとかだったからパニクってでも研磨を守らなきゃと思った結果の行動だよ」
「俺のことも守ってくれよ」
「自分でなんとかして」
「ひでえ」
ちなみに件のなめこが吠えメールに投げつけようとしたテーブルとは現在もここにある、黒尾の目の前の脚は低いがそこそこの面積の天板のついたソファテーブルである。
それを10年前、いたいけな少女だった彼女が投げようとしていたというのだから、火事場の馬鹿力というものだったのだろうか。実際は未遂に終わったので、本当のところは、今はわからないのだけど。