9月某日、曇り
「えっ、お前課題全部終わらしてんの? なに? 人間?」
「ぶっ飛ばすぞてめえ」
孤爪家リビング。なめこは優雅に脚を組んで、研磨の愛猫、りんご(5歳♀)を膝に乗せて撫でながらずずっと湯呑みから緑茶をすすり勝ち誇った笑みをこぼした。
「ぜーんぶあっちで終わらせてきたもんね〜。さすが私、さすが伊達工寮きっての優等生!」
「そういうの言っていいの茂庭だけだからな」
「あと青根とか小原……? だっけ? 二年の」
「あんた達もっと素直に私のこと褒められないの?」
「「あーすごいすごい」」
「雑過ぎ!」
方や羽ペンを走らせながら、方や教科書を捲りながらの返答に不満を零すと、その勢いにりんごはふに゙ゃあと一鳴き文句を告げて、ひらりと膝の上から姿を消してしまった。
「あー……りんごちゃんが……」
「最初はもっとビビってたんだから進歩じゃないの?」
遠ざかる愛猫の尾を目で追いながら、ボソリと研磨が呟いた。
そう、まだ彼女が研磨を主人にしたばかりの頃である。
なめこが暖炉を使ってフルーパウダーで移動してきた時、運悪く暖炉の前で微睡んでいたりんごが居たのである。
それからしばらく、酷く驚かされたせいかりんごはなめこを威嚇するどころか、近づく事さえ嫌がる警戒されっぷりだったのだ。
その頃の事を考えると、おとなしく膝の上に乗り撫でさせていたなんてのは、確かに大きな進歩である。
ちえっ、なんて小さく悪態をつくと、りんごと入れ替わりになめこの愛鳥、ずんだが窓から散歩(?)から戻ってきた。
「ん〜? お帰りずんだ。あんた何持ってんの?」
小さな嘴にくわえた雑草のような物を、差し出された主人の手のひらにそっと置いていつものように肩に着地した。
胡乱げに首をひねる幼馴染みに対し、なめこはハッとして。
「……なめこ、それ、なに?」
「藤袴、かな。そっか。今年も咲いたんだ……」
名前に冠した薄紫色の花を指先でもてあそびながら、肩の愛鳥の嘴をかしかしと撫でてやった。
そして、不意に湯呑みのお茶をぐいっと飲み干して立ち上がったかと思えば。
「ちょっと出掛けてくるわ」
すっくと立ち上がって早足で玄関の方へ向かった、の、だけど。
「なめこ」
「なに?」
「ちょっと待ってろ。俺らも行く」
「……いいよ」
「あ〜? 今更除け者にすんなよ。おい研磨、おじさんのローブ貸してくんね? 取り帰んのめんどくせえわ」
「え……いいけど……絶対丈足りないよ」
「……はあ」
結局何もかもを察した幼馴染み達によって、一人で外に出ようとした足は踏み出せなくなってしまった。