8月末日、晴れ




もう何度目かわからないけど、この瞬間は少し緊張する。何度でもだ。
非通知で鳴った子機をすぐさま手にとって通話ボタンを押した。

「研磨?」
「うん。……早いね?」

電話の相手はプリン頭の幼馴染み。
この時だけ、少し家を離れたマグル界郊外にぽつんと立つ公衆電話から電話を貰う。
連絡手段が中々即時的にいかないのが魔法界の辛いところだ。

「スタンバッてた! 暖炉は大丈夫?」
「うん。この時期は使ってないし」
「それはそうだけど。クロは? いるんでしょ?」
「うん……ちょっと待って」

ぎ、と軋んだ音の向こうでクロ、ともう一人の幼馴染みを呼ぶ声が遠く聞こえる。
研磨二人ならともかく、黒尾が誰かとあの狭い電話ボックスに入るのは無理があるから仕方ない。

しばしノイズを聞いて、それからよう、と軽い声が届いた。

「今年とうとうおじさんがお前に電話かけるって言い出したんだぜ」
「えっ孤爪のおじさまが?」
「そう。うちの親は電話の使い方なんか知らねえし。まあおばさんに仕事行けって捕まってたけど」

魔法を使わないマグルの魔法、理工学技術に興味津々の孤爪家の大黒柱は、なにかとマグルの機械を使いたがる。
それはどうやら昔からだったらしく、私が孤爪家を訪ねる時の定番のお土産は電池と、その父の影響を受けてゲームをやるようになった研磨への新しいゲームソフトだ(あまり高いのは無理だから中古のちょっと流行りの過ぎたやつだけど)。

「ふふ、じゃあおじさまには沢山お土産話しなくちゃだ」
「そうしてやれよ。多分お前が来る頃には家に戻ってるから」
「うん。じゃあ挨拶したらそっち行くね」
「おう。うちの母ちゃん達が居るからよ」
「はあい。後でね」

ガチャン、と通話の切れた音と、不通になったことを告げる電子音に子機を充電器に置いた。

「孤爪くんはどうしたって?」
「ん? 電話したいって言い出したんだって」
「とうとう言い出したか!」

豪快に笑い出した叔父は多分幼馴染みの父を脳裏に浮かべているんだろう。私だってそうだったから、小さく笑って、部屋の隅に立てている止まり木にいるずんだを呼び寄せる。
指の動きを正しく読み取った彼は静かに私の右肩に収まった。

荷物を暖炉に押し込んで、それから暖炉の前に立つ。
叔父、叔母、それと英。

「じゃあ、叔父さん、叔母さん、また冬にね」
「そうね、また寂しいけれど……お手紙待ってるわね」
「何かあったらすぐに連絡するんだよ」
「うん」
「……じゃあ、また、学校で」
「うん。わざわざ見送りありがと」
「叩き起こしたくせによく言う……ぁふ」

不満気にいつも以上に眠たそうな眼をこすりながら、遠慮も自重もあったもんじゃない大きな欠伸をした英に笑って。

暖炉の中に潜り、フルーパウダーを一掴み、もう片方の手で荷物を握り締めて。
緑の炎に、包まれた。





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