8月某日、晴れ




約2時間後。
17時過ぎ、外はまだ日がくれ始めた頃で、明るい。祭りに出かけるには早いような気がしてならないが、幼馴染はすっかり浴衣に着替え、ほんの少し化粧をして、髪をアップに纏めるところまで完璧に出かける用意をして、我が家のリビングで母と団欒していた。

「……もう行くのか?」
「うん! 出店も混んじゃうでしょ?」
「じゃあなめこちゃん、英をよろしくね」
「はーい!」

なにがだ。よろしくされるようなことはない。
大体行きたいって言い出した幼馴染に半ば連れ出されるように出てきたというのに。なんでその幼馴染みに俺がよろしくお願いされないといけないのか。

母親に文句を言おうとも彼女贔屓の親からの小言が増えるだけだ。
そう思って早々に文句を言うことを諦めてクロックスに足を突っ込んだ。

「で、どこいくの」
「りんご飴!」
「りんご飴……ああ、こっち」
「あざーす」

まだまばらな道で色取り取りの屋台を見回して、りんご飴の文字を見つけて幼馴染みを連れて行く。
やっぱり世話してるのは俺の方じゃないか。

溜息をこらえる俺をよそに、幼馴染みはなんのためらいもなく大きな方のりんご飴を購入して、フィルムを剥がして嬉しそうにかぶりついた。

「なめこ」
「ん?」
「一口」
「あ」

飴の棒を握り締めた右手の手首を引き寄せて、真っ赤な飴に歯を立てた。

「ん……あー……ほとんど飴だな」
「そりゃそうよお。あー……飴めっちゃ取られた……」
「俺あれ食いてえ」
「なにあれって」
「なんだっけ、あの」
「どれ」
「俺がいつも食ってたやつ。思い出して」
「まじで? えー……あー……あっ、はしまき?」
「それだはしまき」

だんだんと増え始める人波に、お互いにいつの間にか空いた手を握り合っていた。
混み合う道で人の隙間をすり抜けて、なんとか道から少し外れの開けた場所で立ち止まる。繋いだ手は汗ばんでいた。

「お前ー、俺の背中にりんご飴ぶつけなかった? なんか当たった気がしたんだけど……」
「えー? 知らないよ。それ私じゃないし。もういいじゃんはしまき食べよ」
「あ、ちょっとそこで飲みモン」
「あっ私ラムネ飲みたい」
「えー、俺自販機のつもりだったのに……」
「いいよー自分で買ってくるもん」
「そーして」

座れそうな石段の砂を軽く叩いて、ううん、と少しだけ考えて。
仕方がないので着ていたパーカーを石段に敷いた。

「二本買ったんだけど〜、英も飲む?」
「飲む。あとなめこ座るならこっち座れよ。浴衣汚れると面倒だろ」
「えっ、なーにそれ英イケメンじゃんあざーす」

キンキンに冷えてすでに結露しているラムネを一本受け取って、ニヤニヤ笑う幼馴染みはパーカーの上に静かに座った。
人の流れから花火の方向をなんとなく察して、もうこのままここで良いか、と結論を出して。やっとはしまきをお互いの膝の上で広げた。

「そーういやさーあ、なんかないのあんた」
「はあ? なんだよ」
「浴衣だよ? 浴衣着て髪もアップにしてきたんだよ? 可愛いとかないの?」
「はいはいかわいいかわいい」
「雑!」

白地に紫陽花の咲く袂を振り回しながら抗議するなめこに、酔っ払いに絡まれている気分になる。女ってめんどくせえなあと思いながら。

「あれだな」
「なによ」
「似合う」
「えっ、なんだいきなりのガチトーンか? さっきのは照れ隠し? やーだ英くんかわい」
「寸胴に浴衣似合うってほんとな」
「台無し! ムカつくんですけどこないだから!」
「いやお前実際帰ってから太ったろ」
「やーめろよ体重計には乗らないことにしてんの!」
「デブまっしぐらか(笑)」
「喧嘩売ってんのか!」

屋台の明かりが僅かに届く場所、薄暗い夜の喧騒から外れたところで騒ぐ。
フンと鼻を鳴らしてはしまきにかぶりつく幼馴染みの肩の向こう、「ああっ」と大きな声がした。






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