8月某日、晴れのち雨

 


建物の少ない道を、二人で水溜まりを蹴って走る。
雨足は強まる一方で、何人か、同じように不意打ちの雨に慌てる人とすれ違いながら、近所の公園の東屋に避難した。

「くそっ……、びっしょびしょじゃん」
「はは……ほんとに……つか、英、足はや……」

張り付いた前髪を鬱陶しげにかきあげて舌打ちをする幼馴染みに、ぜいぜいと上がりきった息を正す。いつもだるそうにしているくせに、こんな早く走れるだなんて詐欺だと思う。

「コンパスの差だろ」
「なっまいき……!」

吐き出すセリフは全くもって腹立たしい。
コンビニ袋の中のおやつとジュースは、雨水に沈んでいて、思わず笑いながら袋をひっくり返した。

シャツを絞ったりスカートを絞ったりズボンの裾を捲り上げたりしながら、空を見上げた。
すっかり厚い雲に覆われ、重たくなった空の色から察するに、まだしばらくは止みそうにない。

下ろした髪を絞って束ね直していると、頭になにかばさりとかけられて前が見えなくなる。
とりあえず縛り終えてから振り向くと、呆れた顔で上着を脱いでいた英がいた。
つまり、これは今まで英の着ていた上着だ。

「英? これ、あんたの……」
「濡れてるけど、まあ無いよりマシだろ。着とけ」
「えっ、なんで? 私寒く無いけど……」
「馬鹿、透けてんだよ」

はた、と。
言われてやっと気付いたが、そういや私は色も生地も薄いシャツ一枚しか着てなかった。
数日前にはプールも行った仲なのになあと思ったが、それを口に出すと雨なんかより冷たい視線とうっかり叩かれるかもしれないので、黙って羽織った。

ざあざあと音を立てる雨に、まるで隔離されているようだ。

「なめこさ」
「うん?」
「前に家出したことあったよな」
「ああ、よく覚えてるね。ここでバスの時刻表とにらめっこしてたら叔父さんに見つかったんだよ」
「ものの一時間だったな」
「そうそう」

この東屋は、公園の入り口からは少し遠く、見えづらいこともあって、子供の浅はかな思考の中では絶好の隠れ場所だった。
ちなみに今現在の私から言わせてもらうと全くバカバカしいことであり、ちょっと踏み込めば見つかるようなところなのである。
今日のような日は、確かに隠れてしまうかもしれないけど。

「……家に、帰りたかったんだ」
「……ふうん」

雨の音が少し、静かになって来た。
向こうからゆったりした足音が聞こえる。

顔を上げた向こうには、二本の傘を携えた叔父が、朗らかに笑いながら迎えに来てくれていた。





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テーマ「人外ファンタジー」
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