8月某日、晴れ
ガリガリと羽根ペンが羊皮紙の上を走る音と、時計の秒針の音が響く室内。
黙って教科書や羊皮紙に向き合う中で不意に視線を時計に向けた時、かちんと短針が揺れた。
「うわっ、5時だ。ねえ英、ちょっと休憩しよう、おやつ買いに行きたい」
「んー……待ってあと一行……」
「はーい」
ペン先を軽く拭って、キャップをつける。
インクの蓋もしっかり閉めて、成果物をそっとメジャーで測る。
…………53センチ。うん、悪くない。最低ラインはクリアしている。
あとは帰ってきて完全にインクの乾いただろう頃にしっかり巻いて、トランクに突っ込めばよいのだ。
「終わった。なに、どこに行くの」
「ん。コンビニ行こう。近くに出来たんだって」
「わかった。あー、財布取ってくる」
「外出とくね〜」
「はいはい」
二階に引っ込んでいく背中を見ながら、履いてきたサンダルに足を突っ込んで外に出た。夏は日が長いけれど、一番長いのは6月の夏至で。日が長いのももう終わりかけ、ほんの少し、太陽は傾きつつあって、昼間よりは幾分涼しかった。
同じようにサンダルを引っ掛けて出て来た幼馴染みは、暑い、とボヤいていたけれど。
「ん〜んんん〜英、パピコとぎゅぎゅっとどっち派?」
「パピコ」
「んじゃこれ分けて食べよ」
「おー」
おやつとジュースと、それからパピコを買って、「468円になります」と言った店員に500円玉を渡す。
500円玉は10円玉三枚と、1円玉二枚に変わってしまった。
「あっちはさあ……世界共通に金貨銀貨銅貨しかないから便利だよね……日本だけで硬貨何種類あんのさって感じ」
「まあ……楽は楽だよな」
「えーと、硬貨5種類に紙幣が4種類?」
「4?」
「二千円札」
「あー……」
パピコをがじがじと咥えたまま、だらだら歩く。
すん、と鼻を鳴らすと、やけに湿気た臭いがした。そう思った矢先、足元のアスファルトが、ポツリと色を変えて。
「げっ……!」
「走れなめこ!」
「おっ、おう!」
あっという間に土砂降りに変わった夕立の中、英に手を引かれ屋根を探して駆け出した。