国見とこたつでみかん

 


「ただいま〜」

あー、疲れた、寒い寒いさむさむ、もう凍えちゃうよ。
がたがた、こんこん、ばさばさどすん。

独り言と物音をやかましく立てながら、家主が帰宅した。

多分靴箱に手ついてるな。ブーツ脱ぐときは座ってファスナー下げろって言ったろ。前に転けたじゃん。寒いなら寒い玄関にコートを脱ぎ捨てるなよ。あと鞄をそこに起きっぱなしにする癖もやめろ。

ほんとずぼらな女だなあ、と思いながらみかんを剥くと、がらりと靴箱が開く音、そして、それに次いで。

「あーっ!?」

喧しい声と、さらにまたどたばたと対した距離ではない廊下を走りスパンと襖が開いた。

「おかえり」
「あきちゃん! 来てたんだ!」
「呼び方やめろっつってんだろ」
「へへ、ごめんてあきちゃん」
「お前俺の話聞いてる?」

背中に飛び付いてきて、赤い鼻をすりすりと肩に擦り付けてくる。うわ、無理冷たい。

「なめこ離れろ、お前冷たい、物理的に冷たい」
「だって今帰ってきたんだもん」
「つーか襖開け放ってんじゃねえよ人がせっかく部屋暖めてたのに」
「ごめんなさーい」

おとなしく襖を閉めに行って、また戻ってきて今度はコタツの向かいに体を入れて。

「ただいまあきちゃん」

へらりと笑った。

「……お前メシは?」
「あ、まだ食べてない。でもうち冷蔵庫今日空っぽだよ」
「は? 嘘だろお前」
「嘘じゃなーい。冷蔵庫牛乳しかないよ。買って帰るの忘れちゃった」

むいむいとみかんの皮を向きながら、今から外に行くのも嫌でしょ、なんか頼む? と訊ねられたけれど。
このこたつと暖房の温度に慣れた身体にとっては、襖の向こう、玄関の方は既に極寒の地である。ぶっちゃけるならコタツから出るのだって嫌だ。

「なめこ取りに行けよ」
「えー、やだよあきちゃんが行ってよ」
「むり、俺コタツから出たらしんじゃう」
「なにそれあきちゃん可愛いつもり?」
「お前よりはな」
「ひどーい」

もぐもぐ。むいむい。もぐもぐ。

喋りながら二人で食べ進めるので、みかんの山がどんどんみかんの皮の山に変わっていく。

「もう今日晩飯みかんでいいか」
「ヘルシーだねー」
「偏ってるけどな」
「明日朝起きてどっか食べに行こっか」
「雑炊とか食いたい」
「えー?」

だいぶ身体の暖まったなめこが、もぞもぞ動いてぴとりとくっついてきた。
もうこのまま寝ちゃおっか、と笑ったなめこの口に、みかんの最後のひとつを突っ込んで、電気を消した。


 
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