花巻にお披露目する




正月休みに実家に帰った時だった。
いつものように突撃してきた斜向かいのお子様が、「私今年成人式なんだから! お母さんに振袖用意してもらったし、絶対見に帰ってきてよね!!」と何度も俺に言い聞かせた。

はいはいって笑って答えておいたけど、その時は親父と酒を飲んでたから、緩くアルコールの回った頭で「あれ、こいつこんな女だったっけ」、なんて思った。けど多分それは半年振りに見たせいで、髪が伸びてたり化粧を当たり前のようにしていたから、その違和感の所為だろうなとぼんやり考えた。

が。

「あっ、たかくん! ちゃんと来てくれた!!」
「おー。昨日も何回も電話で言われたからな、わざわざ帰ってきたんだからありがたく思いなさい」
「はーい! ふふっ、ねえほら、綺麗でしょ?」

ひらりと袖を翻して一回転。
赤い振袖の女は結い上げた髪と簪の飾りを揺らしてくすくすと笑った。

周りに居る友人らしい女の子達は丸無視でこっちに話しかけてきてるもんだから、その子達からの視線が痛い。すごく意味深で。

「? ちょっとー、たかくんなんか言ってよ」
「馬子にも衣装だなあ。和服って寸胴の方が綺麗に着れるし、うん、似合ってる」
「酷いし全然嬉しくないんですけど」

全部暴言じゃん、とぷりぷり文句を呟く真っ赤な唇が、彼女が自分の良く知る斜向かいのお子様ではなくなった事を如実に表しているような気がして、はああ、と降参の溜息をつく。

「ため息吐きたいのは私だよ」
「なめこに成人祝いあげよっか?」
「え、なに? お小遣いくれるの?」

やったあ、なんて急に現金なお子様に戻ったなめこに苦笑して、手のひらを上向きに差し出された左手に、こっちじゃない、と呟いてくるりとひっくり返す。
それから自身の左手の小指に置いていた指輪を抜いて、薬指に入れてやった。

「はい、成人祝い」
「……えっ、た、たか、たかくん、これ」

指輪の嵌った自分の薬指を凝視してわなわなと震えるなめこはちょっと面白かったけど、外野のざわめきや囃し立てる口笛がうるさくて、酷く居心地が悪い。

「なめこ、もう式自体は終わったデショ? 帰ろっか」
「ふぇっ、えっ、でも」
「お前それ外で取るの嫌だろ?」
「……これ? ファー?」
「うん」
「え、なんで?」
「俺が和服着た時のうなじが好きだから」
「……」

帰ってあったかい汁粉でも食うべと手を引くと、背中をぼこすか弱い力で殴られて、「たかくんのばか、むっつりすけべ」と恨めしげに唸っていた。


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