青城三年と力む話

 


青葉城西高校、昼休みの1コマである。

「じゃあ今日の景品はこれな。今朝及川のロッカーからパチったケーキバー」
「ちょっ、それ俺の部活前後のおやつなのに!」

松川が机に出したものに対して悲鳴を上げる及川には誰も触れることなく。

「よっしゃ、今日は勝つ」
「精々頑張れよ」
「ムカつく!」
「ねえ俺のケーキバー!」
「よーい」
「聞いてよねえ!」

机の上で、岩泉と花巻が手を組み合い、両者力んだ瞬間。

「ちょっと聞いてよ!! 今せっかく売店でケーキバー買ったのにさァ、途中ですれ違った友達に奪われたんだけど!」

おやつ買いに行ってくる、と離脱していたエリンギが、大層お怒りの様子で戻って来た。
そして、ぐるりと4人を見回したかと思えば、ピタリとある一点で止まる。

「……エリンギちゃん?」
「……それ、誰のケーキバー?」
「おれので」
「今から岩泉か花巻かのになるやつ」
「まっつん!」
「私今無性にケーキバー食べたいんだよね」
「「「「……」」」」

完全に目が据わっている。

たかがケーキバー、されどケーキバー。
多分普段ならエリンギもここまで執着しなかったのだが、つい今し方それを購入したにも関わらず、横からかっさらわれた苛立ちと、そこにタイミング良くそれが転がり出たことで何が何でもという執着心に変わったらしい。

組まれた花巻と岩泉の手をじっと見たかと思うと、徐にぐりんぐりんと肩を回して。
それから、花巻の隣にどすんと座った。

「……エリンギ?」
「どーせいつもの岩泉と花巻の勝負で、これ景品なんでしょ」
「まあ、そうだけど」
「私が岩泉に勝ったら貰っていいよね」
「まじかよ」

言外に退けと言われた花巻はその意図を汲み取り、組んだ手を放した。
さすがエリンギちゃんぶっ飛んでるなあなんてボヤいた及川も、自分より一回り小さい手と組み替えた岩泉も、先ほどよりにやにやしながら審判をかって出る松川も、勝負を見守る側になった花巻だって。
岩泉がうまく力加減をするか、端から負けてやるかしなければ勝負にもならないだろうと思った。

「ふんっ」
「あ゙っ!? てっ、め……!」
「えっ」
「は?」
「まじ?」

ぐらりと、岩泉の手が傾き、彼がそれに慌てるのを見るまでは。

「ほんとに、女子か、お前……っ」
「今! 無性に! ケーキバー食べたいの……よっ!」
「いでででででいてえよエリンギ離せ!」
「うらーっ!」

バシン、と。
エリンギの雄叫びと、岩泉の悲鳴とに、岩泉の手の甲が机に叩きつけられた音が重なる。
ケーキバーゲット、と満足げな表情を浮かべるエリンギと、今まで彼女と組んでいた手をさすりながら震える岩泉を、三人は呆然と見て。

「えええええ岩ちゃんが女の子に負けた!? エリンギちゃんとは言え! 女子に!」
「及川うるせぇ」
「私とは言えってなんだよぶん殴るぞ」
「えっ……待って、岩泉がエリンギに負けたってことは俺らん中で腕力最強エリンギ? マジ?」
「お前今運動部男子の少なくとも4人のプライド粉々にしやがったぞ」

早速もぐもぐとケーキバーを咀嚼するエリンギのご満悦な顔に、未だに手をさすっていた岩泉が首を振った。

「つか、こいつ腕力っつーより握力だな。手が砕かれるかと思った」
「砕けねーよ」
「エリンギ握力いくつよ?」

岩泉の言葉に伺いたてる松川に首を傾げて、最後の一口を放り込みながら。

「え? 春の測定の時は確か右手は……え〜……50ちょっと?」

エリンギの答えに、やっぱりかという顔をする岩泉と、目を剥く及川、口元をひきつらせる松川と、それぞれの反応を示し。

「女子の数字じゃねえダロ……」

一番素直に、花巻がぼそりと呟いた。


 
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