森山は憧れている

 


「少女漫画のヒロインより乙女だね、森山」
「はあ?」

今時の女の子なんて、理想のイケメンを落とすためなら猫を50匹被ったりして、ほんとうの醜い部分は例え女同士でさえ見せないまま。
きゃあなんて悲鳴を上げる子は居ないし、ファンデーションを塗りたくれば不細工は隠せるし、プリクラはフォトショップ。

「女の子に夢見すぎじゃない? ていうか、今まで連敗続きなのによくもまあそこまで女の子に夢見れるね?」
「夢じゃねーよどっかに居るんだ俺の運命の人が!」
「今までの36人は?」
「偽物だった」
「あ、そう……」

黙ってバスケしてればイケメンなのに、口を開けば露わになってしまう童貞力53万。
戦闘力ならマイナス53万だ。

良くも悪くも純粋な奴だとぼんやり思ったりして。

「森山は見た目可愛ければいいの?」
「性格ブスなら問答無用でつまりブスだろ」
「あ、うん……そうだね……」
「だいたいー、お前はどうなわけ?」
「は? むぎゃっ」

ぶにっといきなり無遠慮に頬を摘まれて間抜けな声が出る。なにすんのよとはたき落とすと、じっとその指先を見て。

「すっぴんじゃん」
「当たり前でしょ、学校だもん」
「エリンギは今猫被ってんのか?」
「なんで今更森山相手に」
「じゃあやっぱり俺の言い分に間違いはない!」
「ごめん意味わかんない」

ふふんと得意げにふんぞり返った森山に呆れてしまう。
そんな私をよそに彼はやはりふんぞり返ったままで。

「エリンギみたいに化粧で顔誤魔化してなくて、猫を被ってない女子が居る。つまり、それは他にも居る可能性がある」
「はあ」
「つまり俺は夢じゃなくて現実見てんだよ!」

わけがわからんと首を傾げた私に、そばで聞いていたらしい小堀がとうとう口を開いた。

「つまり、森山に希望を持たせてるのはエリンギだな」
「ま、そうとも言うな。だからエリンギ、お前はそのままでいろよ」
「……ついていけないわ」

だって私は森山になにを言われようと、きゃあなんて悲鳴は上げられないし、ここぞという時に目を潤ませて上目遣いしたり出来ないし、劇的な告白なんぞ出来ないし。
そもそも好きな人がいないので私がなれるのは精々ヒロインの友人Cくらい。

少女漫画に憧れる森山の為、私は日夜祈ることにしよう。森山好みに可愛くて性格ブスじゃない、女子力53万のヒロインが現れるのを。


 
[ 34/34 ]



「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -